真田ピロシキ

星の子の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
3.4
本作の広告を見て芦田愛菜をパシフィックリムでしか見た事なかったなと思い興味を持って調べてみたら原作が『むらさきのスカートの女』の今村夏子だと知り読んでから映画を見た。既読の原作ものを見る時はどう改変したかを気にして見るのだけれど、本作は少し削られた点はあるもののほぼ忠実。大きな違いと言えば時系列順に話が進む原作に対して映画では小学生時代のエピソードは要所要所でバラバラに挟まれる点。自分は原作読んでるから分かるけど未読の人にはどうなんだろう。ひろゆき君のエピソードが後ろに持ってこられたのは意図がよく分からない。

未熟児として抱えていた湿疹が奇跡的に治ったのをきっかけに新興宗教の敬虔な信者となった主人公ちひろの両親。普段私達が宗教にハマった人を見聞きする時は第三者的な視点で触れる事になるが、この話はちひろの主観なので怪しい宗教を奇異の目では見られない。ちひろ自身もステレオタイプ的に思い浮かべるような洗脳されたカルト信者ではなく、ありきたりな学校生活を送る中学生。親友のなべちゃんが「その子、変な宗教に入ってるから勧誘されるよ」と言えるのが両者の関係の深さであり、ちひろの教団へのスタンスと言える。

雄三おじさんに両親の洗脳を解く工作をされたり、姉のまーちゃんが家を出て行っても緩い信仰に変わりのなかったちひろだが、片思いしている東洋版エドワード・ファーロングの数学教師 南に儀式中の両親を不審者と呼ばれたのをきっかけに微かな疑いが芽生え始める。河童のような両親は変に見え、引かないはずの風邪は引いてしまい、それまでは気にも止めていなかった教団の悪い噂も引っかかるようになったちひろ。そんな思いで参加した大規模集会では両親となかなか会う事が出来ずその後の別れを予兆させる。しかしここで原作からの改変がいくつかあり、まず原作では最後まで音信不通だったまーちゃんが一言連絡入れたという事がこの家族はバラバラにはならないのかもと思わされる。また流れ星を見るラストシーンでも原作では本当は見えているものを見えなかった事にして帰る=離れるのを先延ばしにしている節があったが映画ではそういうニュアンスは感じられない。家族の終わりがチラついていた原作と違って映画はまだこの家族に希望が残されている。ただ家族と信仰の終わりはちひろの独立も意味していたので、この調子だと今はまだ良くても将来的に一層こじれるようにも感じる。やはり第三者として見ているこちらとしてはこういう新興宗教に絡め取られるのは好ましく思えないし、それを家族愛で肯定したとも見えるこの映画をハッピーエンドとは言えない気がする。

出演者はセールスポイントである芦田愛菜以外でも若手役者の活躍が印象的。今年だけで過去の出演作を既に3本見ているまーちゃん役の蒔田彩珠は変わらず存在感がある。なべちゃん役の新音も大人びた感じで良い。芦田愛菜で印象に残ったのは親子で星を眺めるラストシーンでしょうか。共演が永瀬正敏に原田知世とは言え結構長い時間をただ正面から捉えたカットで場を持たせたのは流石。こういうシーンの方が泣いたり怒ったりするより難しいかもしれない。