ちゅう

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のちゅうのレビュー・感想・評価

4.8
三島由紀夫に惚れました。


この映画を観る前まで僕の三島由紀夫に対するイメージは、なぜかマッチョイズムに走った過激な保守主義者というイメージでした。
そのイメージは僕の考え方とは相入れず、何故そこまで極端な思想で突き進むのか理解できず、著作も読まずに過ごしてきました。

でもその穿った見方は180°転換されました。

この映画を観た後では、三島由紀夫と全く同じ考えは抱けないとしてもその主張に共感できる部分があると言わざるを得ないし、三島が語る映像を観ると、その人間性に魅惑されないわけにはいきませんでした。


美輪明宏もそりゃ惚れますよ。


多分この映画を観る人はほとんどいないと思うので、背景を簡単に説明したいと思います。

今からだとリアルに感じれないことだけど、この日本にも政治闘争と言えるものがありました。

アメリカに従属してアメリカの意のままに振る舞う日本に対する反発があったのです。

僕の世代より下の世代では、アメリカの意のままで何がいけないのかと思うかもしれません。

でもその考え方はとても大きな問題を孕んでいて(他国の利害で、犠牲になる自国があっていいわけないから)、それに対する問題意識を僕よりずっと上の世代、この映画で描かれる全共闘の世代が感じて行動を起こしたのです。


それが学生運動という形で、暴力を伴った形で噴出しました。

今で言えば香港のような状況に見えます。

その状況をこの映画で映像として観ると、本当にこの日本であったことなのかと目を疑います。

そのくらい衝撃的な状況でした。


そこに、当時、ノーベル文学賞にもノミネートされるような大天才である三島由紀夫が、学生運動の当事者である全共闘の学生たちのその熱意に応えます。

東大でおこなう討論会へのオファーに承諾したのです。
思想的には相入れないはずなのに。


この映画はその相入れない東大全共闘と三島由紀夫の討論の、実際の映像を中心に展開されます。


前述したように、僕は三島由紀夫と考え方では重なる面が少ないのですが、それでも、東大全共闘の学生の空中戦のような観念論に地に足のついたロジックで応答していく三島由紀夫の誠実さには感服せずにはいられませんでした。

この腐った日本を変えたいという熱意に応えて、それを三島由紀夫なりに、建設的な着地点を見出そうとしている姿に感動せずにはいられませんでした。

ユーモアを混ぜたその語り口に三島由紀夫の人間の大きさを感じずにはいられませんでした。

僕は三島由紀夫の人間そのものに魅了されてしまいました。


正直、この日本の最高レベルの知性の対決なので、僕には理解できないところだらけです。

けれど、両者のその真摯な姿勢は、その恐ろしいまでの熱意は、この漂白されて表面上綺麗に見える、しかしその奥底でドス黒いものが蠢いているこの社会に対して、有効性を持ち得る唯一のことだと感じずにいられませんでした。


もちろん三島由紀夫の言っていることが全て正しい訳でもありませんし、東大全共闘の言っていることが全て間違ってるわけでもありません。

しかし、この2020年の今から考えると、三島由紀夫の語っている言葉は圧倒的な現実感があるのです。


この討論会から一年後に三島由紀夫は自害をしてしまうのですが、それはこの日本にとって大いなる損失であると感じました。

そう思わせるぐらい、この映画に描き出される三島由紀夫は、魅力的で生命力に溢れていました。


当時の雑誌の特集でダンディーランキングというものがあったそうなのですが(今で言えば抱かれたい男ランキングかな)、三島由紀夫は三船敏郎や石原裕次郎を抑えて一位に選ばれました。
それもこの映画を観れば納得がいきます。

僕の中で昭和の大スターといえば松田優作なのですが、それに比肩するほどの魅力がこの映画の三島由紀夫にはありました。


このタイミングでこの映画を制作したのはとても意味のあることだと思います。
それはこの討論会から50年という節目の意味を超えて。

この熱量の価値をもう一度評価すべき時が来ているような気がします。
少し気恥ずかしいですが、そろそろこの現実を認めなければならないような気がしています。

ちょっと難しく思われる映画だと思いますが、三島由紀夫の魅力は本物です。
かつてこんな魅力的な人がこの日本にいたんだと感じられる映画なので少しでも興味のある人には観てもらいたいと本気で思います。

そして僕は三島由紀夫の小説を読んでみようと思います。


謝辞
僕はフィクションの力を信じているが故にフィクション以外のものについては疎いところがあります。
なのでこの映画については存在すら知りませんでした。
僕が硬派なドキュメンタリーを観るとき、それは全てある友人の勧めで観ています。
今回もその友人の誘いで観に行きました。
それは正解でした。
このタイミングでこの素晴らしい映画に出会わせてくれたことにとても感謝しています。
ありがとう。
今後も面白いドキュメンタリーを一緒に観に行きましょう。
ちゅう

ちゅう