りょー

マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”のりょーのレビュー・感想・評価

4.0
以前、別のマルジェラのドキュメンタリーを観たけれど、他人の語るマルジェラはとても壮大であって、側近が語るマルジェラはとても疲弊している。ソレが真実だったかどうかは分からない。けれど、そんな印象だけがずっと残っていた気がする。

今回のマルジェラ自身の口から語られるドキュメンタリーを観て、ごくごく自然に腑に落ちた。

あれだけスポットライト当たる華やかなショーの舞台。引くて数多のブランドや、元より無縁の道を選んだ精緻な職人たち。メインストリームへのカウンターカルチャーで名を馳せた新興ブランドに、穏やかならぬ声も多数寄せられただろう。

1つだけ、確実に言える事がある。

それは、伝統や古典を学び、昇華させ、次世代へ紡ぎ食っていく現代の担い手にとって、マルジェラのように、前例にない手法でカウンターカルチャーをやってのける存在が、一種の希望にもなり得るという事。

カタチを変えず踏襲していくも良し。

カタチを変え独自のテーマを模索するも良し。

頭では、そんな単純な二極化ではない事を分かっていても、実際に学び、現場にいる担い手は、いつか必ず直面するだろう。

いや……本当は生涯向き合い続けなければいけないのかもしれない。


“脱構築”というワードも知ってはいたけれど、このドキュメントで、今一歩理解が深まった気がする。

表層を見ればあれだけ大胆不敵で、目の荒い所業。でもその実、モノのディティールを突き詰め見直し、今度は離れて俯瞰し、再度練り上げる。その作業だけでも茫漠な時間を要するし、目には見えない面で職人的だ。

コンセプトの完成度を詰めるのは勿論だけれど、まず第一に、古典や伝統技術をどのプロが見ても粗が無いと思える一定のラインまでは仕上げようと改めて自信になった。

自分の従事するモノのディティールを、文字通り余す事なく見つめ磨く。

デザイン、パターン、素材、部品、原産地、配色、歴史、意味、価値、時代、自分、客……果てしねぇ。

たぶんそこからが解体作業の始まり。

そして、希望にもなり得るなら、絶望にもなり得るんですよね。
りょー

りょー