真田ピロシキ

MINAMATAーミナマターの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.4
7月に水俣市で水俣病資料館を見物し、その後石牟礼道子の『苦海浄土』を読んで一連の水俣旅行の締めくくりのような意味も込めて本作を鑑賞。率直な感想は『ユージーン』というタイトルで良かったんじゃない?水俣病を撮ったユージーン・スミスの映画である事は分かって見たので彼周辺の物語が紡がれるのは当然なのだが、これが落ちぶれたオッサンの再起のために遠い辺境の惨状をダシにされているようで、ユージーンが酒をあおったり大事なカメラを自暴自棄で水俣病の少年にやったりする事が多くてウンザリさせられる。水俣はあなたのリハビリセンターじゃない。途轍もない苦しみを背負わされてる人がいるのに自分探しに来たボランティアみたいな覚悟で中途半端に関わろうとしているこの主人公に全然好感が抱けない。それに比べて抗議活動のリーダーを務めるヤマザキ(真田広之)はチッソの門に自分を縛り付ける初登場から一挙一足・発言が心を打って涙を誘い格好良い。ユージーンを演じるジョニー・デップがDVの件でイメージが悪いのもあり、真田さんが主人公の方が絶対良い。しかもその真田さんを善意につけ込んで無償アドバイザーに使っていたという話も聞くので、映画の内でも外でも色々な意味で搾取を感じさせられる。

放火やチッソ社長による買収等は創作らしく、チッソ社内でスパイ映画のように証拠書類を漁っているのもそうだと思うので映画として脚色しすぎに感じた部分はあるが、ヤマザキを始めとした地元民の闘いをちっぽけなもののようには描かずユージーンの功績を過剰に持ち上げてはいないので、懸念してた白人ヒーロー様を称える映画にはなっていなかった。ユージーンが最初に電車で水俣入りする時の風景は先日自分が八代から肥薩おれんじ鉄道線で行った時そっくりに見えて、撮影がどこなのかは知らないがリサーチは入念にやったと思われる。また日本人の役は端役まで日本人を使われててその辺は誠実。映画のラストでは水俣で終わらなかった様々な国での環境破壊を映し出して過去の話で終わらせない現在への強い問題提起が描かれていて、本国での公開は難航してるそうだが葬られてしまうのは勿体ない。

しかしこの題材はやはり日本で撮られなくてはいけなかったと思う。映画という形での不名誉な過去の継承を外国人に委ねさせてしまったのは不甲斐ない。リアルタイムでは土本典昭のドキュメンタリー映画がやってたと聞くのだが。本作に合わせて土本の水俣病ドキュメンタリーを期間限定上映してたのだがタイミングが合わなくて見逃したのは残念。最後の字幕にはこうある。「2013年に日本の首相は水銀問題は解決したと発言した」作られない遠因がうっすら見えてきそう。「映画に政治を持ち込むなよ!パヨクガー」なんて事を言う輩が出てくるに違いない。意図せずして現代日本に置ける極右政治屋共の侵食を見せつけられて、悪くはないがそこまで良い映画とも言えないという印象なのに結果的に受け取るものは結構多かった。