【文化融合食で家族仲は救えるのか?】
第33回東京国際映画祭のシーズンがやって来ました。今年は、大人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』のノア・シュナップ主演作が2本も上映されます。1本は『戦火の馬』で知られるマイケル・モーパーゴの同名小説の映画化『アーニャは、きっと来る』。そして、もう一つが今回紹介する『エイブのキッチンストーリー』である。ここ最近、『カセットテープ・ダイアリーズ』や『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』といった異国で生きる者を描いた秀作が多い気がする。本作はノア・シュナップ演じる、イスラエル人の母とパレスチナ人の父の間に生まれニューヨーク・ブルックリンで暮らす複雑な背景を持った料理好きな少年が、家族の仲を取り戻すためフュージョンフードに挑戦するという面白そうな内容だ。早速観てみました。
エイブ(ノア・シュナップ)は自分を持っている男の子だ。イスラエル人の母とパレスチナ人の父の間に生まれた彼は、家族からエイブラハムとかイブラヒムとかアヴィとか様々な名前で呼ばれているが、彼は「エイブ」という名前に自分のアイデンティティを収めて我が道を歩んでいる。そんな彼の趣味は料理だ。暇さえあれば料理をして家族に振舞っている。もちろん、SNSにもアップして彼は充実したライフを送っている。でも、彼は家族がいつも食卓で政治の話から喧嘩に発展してしまうのを悲しく思っている。自分に何かできることはないだろうか?そう思っていた矢先に魅力的なブラジル人シェフを見つける。チコは《フュージョン料理》というのを得意としていて、世界各国の料理文化を混ぜ合わせた代物を作っているのだという。早速、エイブは彼の屋台に話を伺いにいく。そこで出会ったブラジルとジャマイカの文化を融合させた揚げ料理アカラジェに感銘を受け、料理教室をサボり彼の店で修行をすることになるのだ。
「FUSIONをCONFUSIONするなかれ」
という言葉を胸に彼は雑用から始まり、彼に料理の極意を習得する。本作は、中高生の映画好きにオススメな作品だ。自分の好きを武器に積極的に大人の世界に入っていく。エイブは12歳。いきなり屋台のものをつまみ食いしたり、キッチン台にリュックサックを置こうとしたりとヒヤヒヤするほどに無礼を働くのだが、積極性を武器に料理を通じて大人の階段を登っていく様子は何かに挑戦する勇気を与えます。また、移民として生きる人々の問題というものも学べるので子ども向け映画として優秀な作品と言える。
ただ、映画として観た際に弱い部分もある。折角料理で家族の仲を癒す物語なのに、割と感情で解決しようとしてしまっているのが勿体無い。確かに、フュージョン料理をイスラエルとパレスチナの関係性に持ち込む危険な挑戦ではあるのだが、そこは料理で解決してこそだろうと思ったりした。
東京国際映画祭上映後2020年11月20日より一般公開されます。