原題は「herself」
喪失から立ち上がり、システムの理不尽に立ち向かい、他者としなやかに連帯する女性たちの物語だった。
暴力を振るった夫の元を離れ、行く先をなくして自らの手で家を建てることを決断したサンドラ。
彼女に場所と資金を提供するペギーはサンドラの母への感謝を形にしつつ、亡くした命を思う。
そしてサンドラの義母もまた男性性に苦しんでいて、、という話で、
一大決心をしたサンドラに勇気をもらうし、彼女の元にたまたま集まった協力者たちの善意には心が温まる。
ファーストカットから不穏さを漂わせ、自らの手で立て直す決心を映像で示すラストカットも見事。
ウェルメイドな良作だなーと思いつつ、これを“美談”にするのもなんだかなーとも。
暴力を受けた側が家を無くし、公営住宅は数百人単位の順番待ちで、夫は「子供のことを考えて戻ってこい」と無神経なクソ野郎。
ここから立ち上がり、自らの手で取り戻すサンドラは凄いけど、誰しもそんなに逞しくないし協力者だってそうそう見つからないだろう。
虐げられた側がひたすら苦しんで、「おかしいよ!」と声を上げ続けないと潰されちゃうって構造としてダメだろ。
値上げのニュースに被せて「これを乗り切る節約術」を伝えるワイドショーみたいな、本来“公”が担うべき役割を“個人”に収斂させてしまう暴力性には、敏感に気づいて異を唱えなければと思う。