九月

ナイトメア・アリーの九月のレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
4.4
思いの外好きな、嫌な感じだった。
公開時に映画館で観るつもりだったものの長さと暗さに断念、でもやっぱり映画館で観れば良かった…。

初めは口数が少なく、謎多き主人公が一体何をしたのか、これから何をするのか、多分きっと過去に良くないことをしていて良くない方向に進んでいくのだろう、と分かりつつも、何の害もなさそうに見えるスタンがどう変わっていってしまうのか、というところにとても引き込まれた。
そして最後まで見て、結局彼は変わったというより、昔から変わらず同じことを繰り返しているようにも思えた。

なんとなく破滅が見えていて、でも展開が早くないからこそ、安心して楽しめた気がする。
見世物小屋という舞台と、ショービズの世界で人を騙すようにして頭角を現す主人公というと、とある苦手な映画を思い出したのだけれど、その映画とは違い主人公を嫌いになるどころかむしろ同情してしまった。

終始漂う不穏な空気とは裏腹に、煌びやかで贅沢な衣装や美術、そして他の世界で出会って欲しかった…と思ってしまうような登場人物たちから目が離せなかった。
スタンはすんでのところで危機を回避したり、生き長らえたりするけれど、もうここで命を落としてしまった方が楽になれるのではないかというポイントが多々あった。

父親の時計や酒、小型の拳銃などなど示唆的なアイテムが多くて、それがまた不穏さを掻き立てていた。
何か意味があるのかな、と思うようなものが多かったけれど、特に、逃げ込んだ貨物列車でゲージの間に隠れるシーンで、その中に入っているのが多数の鶏だとうっすら映し出され、鶏って何の象徴?この映画の中で鶏が出てきたのは…と思い出し、気付いた時には身震いした。一番ゾクっとしたシーンだったかもしれない。

唯一の救いの存在であったモリーにも去られてしまい、お金すら失ったスタンにはもう絶望しか残っていないのかと思いきや、意外にも彼が最後に見せたのは笑顔。あの狂気的な笑みが悍ましくて忘れられない。
九月

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