Inagaquilala

ファーザーのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.1
アンソニー・ホプキンスが認知症の老人役を演じるヒューマンドラマ。とは言っても、ちょっとした仕掛けがあって、観ていて油断ができない作品でもある。ちょっと疑問に思ったり、気になったりするところがあったら、しっかり記憶にとどめておこう。最後に思わぬカタルシスを得ることができるかもしれない。原作は、世界30カ国以上で上演された舞台劇(「Le Pere 父」)らしいが、未見のため軽々しく判断はできないが、見事なほど映像作品に移し替えており、なるほどと最後は納得した。

ロンドンで独り暮らしを続ける81歳のアンソニー(本人と同じ名前)は、認知症を患っており、時折、記憶が途切れるまだらボケの状態だ。この境界にいるのがミソかもしれない。娘のアンが手配した介護の人間も、アンソニーはことごくはねつけてきた。そんなアンが恋人とパリで暮らすと告げるのだが、アンソニーの自宅にアンと結婚して10年経つという、見知らぬ男が現れる。アンソニーにはもはや現実と幻想の区別がつかなくなっていたのだ。物語は、認知症の老人という人物設定を生かして、観客さえもその混乱に投げ込んでいく。舞台劇の原作者であるフロリアン・ゼレールが自ら監督も務めているだけに、そのあたりの映像的語り口もかなりしっかりしている。アンソニー・ホプキンスの演技ばかりがクローズアップされるが、フロリアン・ゼレールの映画的演出も評価してあまりある。
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