決して誰にとっても他人事じゃない話だからどんなホラーより怖い。ミステリーとしてもよくできてる。
一般的によく知られている認知症の症状をミステリーの要素として使った脚本が上手くて、オスカー脚色賞受賞も納得。「ブラックスワン」とかを思い出す疑心暗鬼スリラー（？）としてもよくできてる。
しかしスリラーとして面白い！とは言えないのは誰にとっても身近な病だから。自分も今まで認知症の方と関わる機会がそれなりにあったからこそ、もっと違う接し方ができたんじゃないか、と苦い気持ちになった。こんなに誰しもがなる可能性のある病気なのに、なんだかすごく認知症の人への関わり方って不十分なんじゃないか、って思わされた。
家族や身近な人の顔がわからない、物を盗まれたと怒りだす、時間感覚がわからない、周りからすると呆れられたり人騒がせだ、みたいな態度をとられてしまう症状が本人視点からするといかに恐怖を感じることか体験できる作品ってなかなか新しいのでは。
オスカーで番狂わせをおこしたアンソニーホプキンスの怪物級の演技はいわずもがな、娘役のオリヴィアコールマンが凄い。感情を爆発させるというより、無理やり飲み込むような演技って一番難しいと思う。
でも認知症どうこうに限らず、自分から見た世界の見え方とか、感じてる感覚とかが周りから理解されないってめちゃくちゃ悲しいし怖いことだと思った。でも人には理解を求めるのに、他人に対してはものすごく不寛容なのが人間って生き物だなぁとか思ったり。アンの恋人のアンソニーに対する態度とか言葉、たしかに酷いけど、あの人がすごいやな奴とかそういうことじゃない気がして、自分も他人に対する不理解から、ああいう嫌な思いをさせてることあるだろうし。
とにかく、ポスターや予告から連想させる生ぬるい感動作ではないので、観るにはそれなりの覚悟がいるのでは。まあよくできた脚本と、名優2人の演技で十分一見の価値ありだとは思うけど。
