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ラスト・シフトのGreenTのレビュー・感想・評価

ラスト・シフト(2020年製作の映画)
3.0
ファストフードのチェーン店に38年間勤めてリタイアしようとしている60歳過ぎのおじいちゃんと、彼の後釜になる20代の黒人青年を描いたお話です。

スタンレー(リチャード・ジェンキンス)は、高校も中退し、地元ミシガンはアルビオンのファストフード店の夜勤シフト(夜10時から朝6時)を38年間も勤めてきて、昇進もしなかったおじいちゃん。死期の近づいた母親をフロリダの施設から引き取って、最期を看取って上げたいと、リアイアを考えている。

ジェヴァンは、公共物破損だか、なんかつまらない罪で10ヶ月禁固刑を受けるのだが、保護観察になる。刑務所に入らないために仕事を確保しなければならないのだが、前科のせいでなかなか見つからない。ジェヴァンは若気のいたりでできちゃったらしい子供もいる。

ジェヴァンはスタンレーの後釜に雇われ、スタンレーが辞めるまでの1週間、トレーニングを受けることになる。

スタンレーは平社員なのに、自分は夜勤のマネージャーだとジェヴァンにえばったりする。また、会社のルールブックを「これに全て従うんだ」と見せる。

つまり、自分は、本当はマネージャーになってもいいくらい仕事を良くわかっているし、ルールに従って正しいことをしてきた、優良社員なんだ、と言いたいらしい。

スタンレーは極端なケースかもしれないけど、40歳過ぎた人なら、「自分は正当な評価を受けていない」と会社に「?」と思うことはしばしばあると思うので、スタンレーに肩入れしてしまうんじゃないかと思います。

ジェヴァンの方は若いので、「なに言ってんだよ、ジジイが」って気持ちもわかる。若い子にしてみたら、スタンレーのような人が一番なりたくない大人なわけで、そういう人に説教臭いこと言われてもね〜。

この2人がだんだんと違いを超えて仲良くなる、ってのが定番のいい話なんだろうけど、そういうわけでもないんですね。

最初はジェヴァンが、黒人だから恵まれない、みたいなことを言うとスタンレーが「ふざけるな!特権階級の白人だって?俺は社会から恩恵を受けたことなんか一度もない!」って怒り出すんだけど、「これ一理あるよな〜」って思った。白人でも、田舎の寂れた街で貧乏な家に生まれたら、人生挽回のチャンスはほぼないに等しい。そういう人に言わせれば、「特権階級」なんて呼ばれたくない!と思うでしょうね。

でも中盤、スタンレーがマネージャーのシャズという黒人女性に「俺は会社で一度もフェアに扱われたことがない!」ってブチ切れるとシャズは「フェア?フェアがどういうものか、あんた本当に分かってるの?」と言う。つまり黒人は社会でフェアに扱われていないから、白人が何を言う!って感じらしい。

上記のようなエピソードがとりとめもなく続くので、「面白くない」と言う人も多かったのですが、私は結構好きでした。人種差別がどうこう、ってことじゃなくて、スタンレーとジェヴァンは人種も年齢も違うのに、結局同じファストフード店で働いている、その中で何気ない本音が見えてくるって感じかなあ。

お話が盛り上がらないとか、何も結果が出ないって意見も多かったけど、世の中の片隅に追いやられた人たちの人生って、このくらい淡々と地味なんじゃないかなあ。そういうところを真摯に描いてはいると思います。

主演の2人がなかなか好演していて、暗い内容なのになんだかライトタッチになっているのは、この2人のおかげ、特に黒人青年を演じたシェーン・ポール・マッギーは、なんだか憎めない感じで良かったです。

あ、あと、『ファーゴ』シーズン1のアリソン・トルマンが、ジェヴァンの保護観察官で出ていて、『ファーゴ』の時と同じくいい味出してたんですけど、この人もうちょっと上手に使って欲しかったなあとは思いました。

監督・脚本はアンドリュー・コーンって人で、なんかTVドキュメンタリーでエミー賞とか獲った人らしいんですけど、まだ若くて長編映画はこれが初めてって新鋭らしいです。ちなみにプロデューサーがアレクサンダー・ペインなので、期待の新人なんでしょうか。
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