ぽん

RUN/ランのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

RUN/ラン(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「代理ミュンヒハウゼン症候群」のお話。自己満足のためにケガや病気をねつ造するのがミュンヒハウゼン症候群で、傷つける対象が自分ではなく他者(多くは子ども)に向うのが代理ミュンヒハウゼン症候群。

本作に登場する毒親ダイアン(サラ・ポールソン)は完璧な母親というアイデンティティにしがみついて生きている。車椅子生活の病弱な娘クロエ(キーラ・アレン)に対して栄養士、看護師、教師の3役をこなすスーパー母ちゃん。子離れ出来ていない保護者仲間に対しては、自分は娘の自立を望んでいるのだと本音を隠してカンペキな親ぶる。そんなどこか危うい母親の、過干渉と束縛に不満を抱いていたクロエが、ふとしたキッカケで自分が飲まされている薬に疑念を抱くところから物語が大きく動き出す。

物語の構造は、毒親VS娘の戦いというシンプルなもの。歩けないクロエちゃんが圧倒的に不利なのだけど、機械工学が得意だったり、とにかく賢いのであれやこれやの工夫で薬の正体を暴くところまでが一つの山場。この攻防戦がかなり面白い。

後半は体を張った脱出劇になるのだけど、これがまたスゴイ。クロエ役の女優さんは実生活でも車椅子使用者なのだとか。どうりでリアリティがハンパない。屋根の上を移動したり喘息発作が起きて気管支拡張剤を探したりといった場面は、下半身が不自由な彼女の場合、通常の何倍もスリリングになる。

で、この映画ほとんど男性が出てこなくて徹底して女と女の闘いになっている。この「父なき世界」は、法や倫理の監督がない、裁きが訪れない世界なのですね。死をもって罪を贖うというソリューションにはならない。
このドロドロした情念の世界がまたホラーで、最後が怖すぎます。
ぽん

ぽん