TakahisaHarada

のぼる小寺さんのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

のぼる小寺さん(2020年製作の映画)
3.8
大好きな桐島のラスト、レンズ越しの宏樹と前田のやりとり(「自分が楽しいから映画を撮ってるだけ」)と重なるような話で良かった。こっちはより前向きで啓蒙寄りな話で、その分現実味がないと感じる部分もあった。

ストーリーは主要人物の名前がついた章立てになっていて、各章はその人物中心に描かれる。「愛がなんだ」の後半も同じような演出になっていて、今泉監督はその意図を「終盤にいくにしたがってテルコと誰か、みたいな2人芝居が長く続くので映画が止まり長く感じる懸念から文字を入れた。また、1人1人テルコのもとを去っていき1人になるという描写を伝えたかった。」と言っていた。
本作も小寺さん+誰か、という2人芝居がよく出てくるので、単なる人物紹介、観客の誘導以上の意図があったのかもしれない。「愛がなんだ」が1人1人テルコのもとを去っていく様子を描いてるのに対して、こっちは1人1人小寺さんに感化されて集まってくる様子を描いてるな、とも思った。

夢中で頑張ってる側の心理も、夢中になれるものがない側の心理も描かれてるのが良い。
小寺さんが頑張るのは「自分が嬉しい」からだし、文化祭でバカにされたときに言った「ムカつきはしない。寂しいとは思うけどそれでいい」も素直な気持ちだなと思った。

夢中になれるものがなかった側も、四条「小寺さんを見てると自分も登らなきゃと思う」、倉田「なんで登るのか分かんないけど、なんか泣ける」と感化されて、作中で行動を起こす。
近藤も「やりたいことは見つからないけど、目の前にあることを頑張ってみてる」と言ってたように卓球で結果を残す。その過程で頑張りをバカにしてた卓球部の2人を許すが迎合はしない描写は小寺さんとも重なるし印象に残る。

自分の中高を振り返ると、一貫して頑張ってた側にいたわけでも頑張ってなかった側にいたわけでもなかったのでどちらの気持ちも頷けた。
皆が近藤、四条、田崎、倉田のように行動を起こせるわけではないし、夢中でやっていても桐島の風助のように報われない人もたくさんいるので、啓蒙寄りの優しい世界が描かれてるなとは思った。
近藤の県大会ベスト8とか、現実味がない部分もあって、ロッキーのように勝てなかったとしても堕落したところから立ち上がり、自分の信念を貫く素晴らしさが描かれてればそれで良くない?とも思ってしまった。
ただ、他人の頑張りをバカにすると必ず自分に返ってくる(その視点が枷になってチャレンジできない人間になる)とか、自分なりに打ち込んでいるものがあると自然と他人を応援できる(小寺さんの大会の描写)とか、十分すぎるぐらい響く作品だったし、嫌味のない爽やかな青春映画で良かったなと思う。