みかんぼうや

のぼる小寺さんのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

のぼる小寺さん(2020年製作の映画)
4.5
  【唯一無二の緩く爽やかな雰囲気を醸し出すスポ根じゃないスポ根映画】

誤ってレビューを削除してしまったのでもう一度・・・
ある高校生たちのなんてことのない日常を描いた、ただの青春物語。なのに、なぜこんなに魅力的!見終わった後に、とても爽やかな風に包み込こまれ、心地よい浮遊感を感じる映画。疲れた時、少し癒されたい時にまた見たい作品です。

いわゆる青春ものと言われるジャンルはほとんど見ず、さらに言うとちょっと熱いスポ根物はむしろ苦手な分野に入る私にとって、この映画はそのどちらにも当たるのでは、と思い、身構えて見始めたのですが、オープニングのピアノの旋律から、作品全体を通して感じる登場人物たちとの「穏やかで心地よい距離感」に魅了されました。この距離感は、この作品においてとても大切だと思っていて、登場人物たちに適度に感情移入しながらも、一方で客観的に見られる距離にいられrことで、当初は私が身構えていたスポ根物にありがちな暑苦しい「一生懸命の押し付け感」と「感動の押し売り感」がなく、静かな野原に適度に涼しくて心地のよいそよ風が流れ続けている感覚になるのです。

ただし、その高校生たちの当たり前の毎日が「静」の雰囲気の中で描かれつつも、物語のテーマは、スポ根物の王道で骨太な「夢を諦めず、毎日一生懸命努力する」だったりするのです。主人公の小寺さんのこの姿勢が、変わらない毎日を過ごす周りの友人たちに少しずつ変化を与えていき、みんなが夢や目標を意識しながら毎日を一生懸命に生きる、という流れも、はっきり言って超王道です。なのに、やっぱり全然暑苦しくないし説教臭くない。だから私のようなひねくれ者にとっては、うがった見方をすることなく、作品によって強制的に感動させられることもなく、自然発生的にそのメッセージを感じて、後半には思わず目に涙を浮かべるのでした(決して、感動、大号泣ものの作品ではないのですが)。

この暑苦しくない、説教臭くない作品全体の爽やかな浮遊感を作り上げるのは、映像や音楽、脚本から織りなされる前述の登場人物たちとの距離感と、主演である小寺さんを演じた工藤遥さん(元モーニング娘とは知りませんでした!今後が楽しみ。)や伊藤健太郎さん(これを見て、不祥事と日ごろの態度の悪さという噂が本当に残念だと思いました)をはじめとした演技が大きいでしょう。

こんなにいい子たちばかりで、お互いをリスペクトし合える素敵な仲間たちばかりの高校なんてあるのかな?いじめとかないのかな?というダークサイドな自分が時々問いかけることもありましたが、ことこの作品についてはそういった陰の要素は極力ないほうが良いと思いました。この心地よさが作品から消えてしまうから。あー、もう一度高校生活を思いっきり楽しんでみたい!
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