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アウステルリッツのらのレビュー・感想・評価

アウステルリッツ(2016年製作の映画)
3.6
W・G・ゼーバルトの『アウステルリッツ』は個人的に最も好きな長編小説の一つである。このドキュメンタリー映画はその同名小説に着想を得て制作されたもの。ベルリン郊外にあるザクセンハウゼン強制収容所跡地を舞台に、痛ましい歴史の記憶がダークツーリズムによって消費される様を映し出す。

ダークツーリズムについては、以前から考えていたことでもあるのだけど、それに近い興味の持ち方をすることやそれに近い行動を取ることが自分自身にも無いわけではない。それに、悲しいかな全ての人間の性と密接に関係しているものだとも思う。だから、この映画を観ていても「自分はこの人たちとは違う」「自分はこんな人間ではない」とは、どうしても思えないのだ。

きっとセルゲイ・ロズニツァ監督も、遊び半分でツーリズムに訪れる"個人"を断罪したかったわけではなく「痛ましい歴史的記憶」と「ある程度時間が経ってしまってからそこに接続する人々("群衆")の意識」との乖離の現実を音と映像によって浮かび上がらせたかったのだと思う。だからこそ、元々のスタイルもあるだろうが、インタビューやナレーションを排し、定点カメラによる長回しで徹底して客観的に撮ることに拘ったのかもしれない。
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