【ヒッチの第一歩、をデジタル修復版で】
英国にてデジタル修復された、ヒッチコック初期サイレント映画の特集上映『ヒッチコック9』に本作だけ、行けました。
『快楽の館』は監督デビュー作。そもそも監督になる気がなかった人だし、さほど期待もしませんでしたがまぁ、面白かった。まぁ、ふつうのメロドラマですが、堅実に撮っていますね。まだ20代半ばでこれだけできれば、腕は確かではと。
で、ネガネガに盛り上がる修羅場の先で殺しあり!な辺りに、ヒッチな香りが少し漂い。
ナイトクラブ「快楽の館」を舞台に、堅実に暮らすコーラスガール・パッツィと、彼女を踏み台にスタアとして成り上がる女・ジル。そして彼女らに群がり、つながる男たち…らの運命交錯とその顛末。
描写は丁寧だけれど、時代のテンポもあるでしょうが後半、ダレました。90分あったが80分くらいでよかった。廉価版のDVDは一部カットされ、それ位の尺だそうだがそのうち見てみたい。
当時は英国よりドイツ映画界の方が潤っていたらしく、本作はドイツとの合作で、場所もドイツとイタリアで撮影されています。あの、いかにもドイツ映画!という天高くだだっ広いセットと、イタリアの避暑地コモ湖畔。これらの影響かちょっと無国籍風、ファンタジックなひとくち味が出ています。その分、陰惨さが薄れていると思う。
パッツィ役ヴァージニア・ヴァリがとてもよかった。当時ハリウッドの売れっ子で、呼び寄せたらしい。チャップリン映画で有名なエッサネイ・スタジオ所属だったのね。すっきりした美人で、パッツィの葛藤や憂いをわかり易く…サイレント特有の大仰演技があまりなく…伝えてくる。
で、本人もいいけれど、ヒッチがこうして、真っ直ぐに女性キャラを描けていたことにもびっくり(笑)。細部までよく伝わる、デジタル修復版バンザイです。彼女のお着替えとストッキング脱ぎ脱ぎシーン付き。もうデビュー作からコレあったのか!と可笑しかった。
逆に、ジル役カルメリータ・ジェラティはナマズみたいな顔で、どこがいいのかわからない。踊りもヘンだし。ここは当時の価値観ならでは、でしょうか。
数年後に登場する、世界初のミュージカル映画とも言われる『ブロードウェイ・メロディー』も、今みるとレビューシーンなんてかなりイタイから、これでも問題なかったのでしょうね。
モノクロ映画ですが、ブロックごとにセピアとインディゴに着色されていてちょっとびっくり。昼間にロケして、夜間シーンに見せるためインディゴにしたり等…原版がそうやっていたそうだ。これ、勉強になりました。
ヒッチの無声映画は、IVC版DVDで悪画質とテキトークラシック後乗せしたもので我慢していたから、クリアな大画面と生演奏付の上映はなかなかの快楽でした。
音楽はピアノ(キーボード)とヴァイオリンでしたが、後者は出番が少なく逆に効果的。ピアノは山場をガンガン盛り上げる。やっぱり音楽が合うといいものです。古い映画でも、ソフト化の際は気を使ってほしいもの。IVCさん、よろしくです。
<2017.3.22記>