瀬口航平

ペルシャン・レッスン 戦場の教室の瀬口航平のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

今年一二を争うぐらい良かった映画。
設定の面白さから、これは絶対観たいと思ってた。

この独特の設定をフルに活かしたお話に仕上がってる。
この設定だったらこういうのが観たい、という観客の期待にあらゆる面で応えてくれてる。(本物のペルシャ人出てくるとか、ペルシャ語で現地の人に話してるつもりなのに通じないとか)

パンフで書かれてるようなことはここには書きたくないので、個人的に思ったことだけ書く。

とても興味深かったのは、ジルが創作した言語で、大尉が自分の身の上話をするところ。外国語だと、普段話せないようなことも話せるようになるのかもしれないな、という発見と、あと、ここがこの作品の、この作品だけの特徴だと思うけど、この言語は、世界中でこの二人にしか交わされてない言語なんだということ。それが作り出す、観客にしか伝わらない親密性とか空気感のようなものは、この作品にしかない!と思った。(ジルはここに親密さを感じてないし、大尉は本物のペルシャ語だと思ってるから)

また、あまりにも立場や状況、辿ってきた人生が違いすぎて、ジル側からは全く描かれてないんだけど、きっとそれらが違えば、この二人はけっこう仲良くなれたんじゃないか、と思えた。丁寧で実直なところとか、性格合いそう。関係性遠すぎて全く描かれてないけど。

大尉からしたら、唯一自分の身の上話をしてしまった相手であり、真面目な仕事ぶりから、好感を持てる相手なんだと思うけど、ジルからしたら、殺されないためにやっていることでしかなくて、いくら守ってくれようが、彼からの愛情とかは全く感じてないのが面白い。
余裕がないと受け止めきれないのもあるし、話が進んで彼らの残虐さを目にするにつれて、どうあがいても、大尉に好意を感じるのは難しかったんだろう。

マックス兵長が、最後に大尉の命令違反を報告しに行ったとき、他にやることないのか、と所長に言われるシーンも印象的。他の戦争映画でもやられてることかもだけど、いかに規則とか命令のようなものが、状況が変われば無に帰してしまうような、もろくて、馬鹿馬鹿しいものかがわかる。
結局は彼らの満たされない思いとか、所有欲とかエゴを満たすためだけのものでしかなかった。

表面上は大義のために動いてます、みたいな感じなのに、実際はくだらない噂話に花を咲かせて、内輪で揉めてる非生産的な集団であることも、親衛隊内の人間関係から読み取れる。

どこかのシーンで、疲労でぶっ倒れた囚人に、看守が「立て!」って何度も上から鞭で叩くシーンあるんだけど、どう見ても立たせる気ないだろ笑っていうぐらい上から叩いてて、いや、叩くのやめれば立てるかもよ、、と思いながら観てた。ただいたぶって、暴力振りかざして、優越感に浸ったり、彼らの苦しんでる姿を見ることが目的だったんだな、と思った。

最後、大尉がジルを逃して、それぞれ別の岐路に向かったシーンから読み取れることとして、大尉は自分の通訳のために彼を助けたんじゃなくて、本当に感謝の気持ちと愛情から、ジルを助けてたということ。そういう描写がナチ側の人間から描かれてたこともとても良かったと思う。

ジルが、囚人の名前を泣きながら読み上げる最後のシーンはずっと忘れない。この作品にしかない独特で、奇異で、そして非常に感動的な最後だったと思う。

けっこう物語を観てるときは、雑念が浮かびやすいほうなんだけど、こんなに最初から最後まで集中して観たのはいつぶりだろうか、、
全てのシーンに意味があり、物語の中で伝えたいことをあらゆる角度から余すところなく伝えてくれてた。本当によく出来た脚本。こんなん書きたいわ。完璧でございやした。

世の中いろんな物語がこれだけ溢れてる中、観たことないわ、こんな話、、って思える物語に出会える幸せ。でもただ奇妙なだけでなく、そこに説得力もちゃんと加わってるから、物語に強度がある。奇異さと説得力は、どちらかだけだと物足りなさを感じてしまうけど、この作品はそれらを両立できている稀有な作品。数々の戦争映画があるけど、間違いなくその中でも傑作です。
瀬口航平

瀬口航平