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みんなのヴァカンスのBigsのネタバレレビュー・内容・結末

みんなのヴァカンス(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます



ギヨームブラックの最新作ということで期待して鑑賞。観てみると期待以上に面白かった。

話としてはなんてことなくて、どこの国でもありそうなありふれた風景の1コマだけど、なんでこんなに瑞々しく生々しく可笑しく、そして感動的にすら映るのだろうか。登場人物に本当に血が通っていて、観ている最中はフィクションであることを忘れさせるような。

ギヨームブラック監督作って、いまや権威ある国際映画祭に選出されるような作品だけど、その主流とは違って、何か社会批評が前面に出るわけではないのは特異な気もする。ただし、会話の端々に彼ら彼女らがこのヴァカンスから日常に戻ったときの社会的背景は見え隠れする。

見え隠れする社会的背景。キャンプ場に着いた時、シェリフは英語で喋っていて、やはりインテリ。エドゥアールとの会話でもグランゼコールにも行けたけど、金持ちばかりだから嫌だと言う。学力や能力とは別の資産によって格差が生じる。
フェリックスとアルマ、黒人と白人のカップル。アルマの家に行けないとき、フェリックスは俺が黒人だからか?と問う。アルマはうちの親はオープンよと答えるが、そもそものこのフェリックスの問いから、今なお日常的に根底にある偏見や差別も浮き彫りになる。


とにかく些細な事象の数々が、なんとも生々しく、時に愛おしく、面白い。そして、観た後は心に刻み込まれる登場人物たち。

ギヨームブラックの作品は割と日常から離れたヴァカンスでの、一時の人間同士の関わりを描いていることが多い。
今回も、初めは他人同士だった人間が次第に仲を深めて、親しくなっていく。
初めはマイナスの出会いだったり、偶然の出会いだったり、たまたま道で見かけただけだったり。そこから思いもかけない関係が生まれる。
初めは、こんなの絶対上手くいくわけないだろうという旅路で、その中で徐々に仲を深めていく男3人が極自然に描かれ、そのやりとりが微笑ましい。
反対に、ヴァカンスに行く前は、親しかった男女が次第にその終わりを迎えたり。
この関係性の機微を描くにあたって、ギヨームブラックがヴァカンスを舞台に選んでいるのは、少し日常や現実から外れた場所で、社会の抑圧から逃れた先での人間の本質みたいなものを描きたいのではないか。

フェリックス、シェリフ、エドゥアールの歪なドライブ。母親からの電話。途中の事故で足止めを喰らう。車内でスナックを食べるな。
フェリックスのサプライズ訪問。アルマからは拒絶される。かなり暴力性も伴うようなフェリックスの強引なアプローチ。このあたりも変に人間を漂白せず、かといって過度に悪くもなく、等身大の人物像を描いていた。
シェリフとエドゥアールは次第に仲良くなる。仕方なく二人でテントで寝る。このテント臭くないか。返事をするために毎回マウスピースを外すエドゥアール。このやりとりの妙な面白さ。
アルマが仲良くなるゴールデンレトリバーを飼ったチャラ青年。その友人の悲観主義者の変人。チャラ青年は、チャラいれども、税理士のアルマ姉に食ってかかったり、彼なりにこの社会の資本主義を批判的に見ている。
変人の友達は初めから悲観的な話でアルマを困惑させる。離れたいのか、洗面所どこ?とばっさり編集するのが面白い。
渓流くだり、中々飛び降りれないアルマ。それを待ってるときの会話も面白い。構ってもらいたいだけよと姉。マリファナ持ってる?と変人、彼女に吸わせるの?とトンチンカンなエドゥアール。
シェリフは娘と二人の親子と仲良くなる。シェリフのキャラクターから打ち解けるのも自然と納得できる。ただ、彼も内にコンプレックスを抱えてて、それをフェリックスに指摘されて八つ当たりしてしまう。そこからの仲直りと一晩のバーでのデート。このバーで二人がカラオケで歌う場面は不思議と涙が。
フェリックスとアルマの顛末。フェリックスの少し粗暴な態度は、アルマから拒絶されても仕方ないと思うし、はっきり言ってフェリックスが悪いと思うけど。当然根っから悪人でもなくて、やっぱりその時々の気持ちとかすれ違いで不幸にも別れを迎える。
フェリックス、シェリフ、それぞれで人間関係の始まりと終わりを描き、またラストにフェリックスは川沿いで路上で劇をしていた女性と出会う。そのなんとも言えない偶然やすれ違いから人と人との関わりが、それこそ川の流れのように、不安定に変わっていき、でもだからこそその一瞬が愛おしいような感覚。
本作のラストも、このヴァカンスが終わりを迎える朝で終幕となる。おそらくフェリックスもシェリフも元いた場所に戻っていくだろうし、ここで出会った人たちとの関係が今後も続くかわからず、なんならフェリックスとシェリフの関係もこの後続くかわからない(二人が合流しないままラストを迎えるのが、後の二人の別れを思わされた)。でもこの一時の経験は何かその後の人生に影響を与える気もする。
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