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ドント・ルック・アップのKtoのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.9
【説明】
天文学者が「6ヶ月14日後に彗星が地球に衝突し破滅させる」という危機的発表をするも、情報が氾濫する社会で人々は混乱し、思わぬ方向に進んでいく…。

科学の軽視と利己主義の沼に陥りがちな現代社会をありのままに描写した超絶攻撃的な社会風刺コメディ映画。

【感想】
科学を軽んじる衆愚政治、SNSでの軽率な発言、著名人による軽薄な慈善活動、気候変動よりもアーティストのゴシップを追う能天気さ、"バズ"至上主義などが、どこまでもシニカルに描かれていて面白過ぎる。ブラックジョーク、と言いたいけど、これ全部現在進行形で起こってることだと気付いて怖くなった…。

ミンディ博士もケイトも、科学に実直な堅物ではなく程よく適当で人間らしいところもまたいい。ミンディは(恐らく極度の緊張下に置かれているストレスもあるだろうけど)華やかな世界に器用に適応したり、一方でケイトも頑固ではないけどあまりの不条理には耐えられずにキレてしまったり。大統領室でのやりとりを「おかしい」という素直な言葉を吐き続けたのもケイトだった。
この映画がシンプルな二項対立(知性vs反知性)に終始していないのも、この二人の主人公のキャラクターが非常に愛嬌に溢れているからだと思う。本気で彼らには幸せになってほしいと思ったもん…。

脇役まで豪華キャストでガチガチに固められていて、オールスター感謝祭としても楽しい。ティモシーとケイトとミンディ博士の3ショットとか、もう未来永劫観られないかも知れないよな…奇跡的だ。
そしてBASHのCEOのピーターも、現在する巨大企業のCEO達を凝縮させたような嫌味なキャラクターで、素晴らしかった。黒のタートルネック、俗世離れした話し方、「僕はビジネスマンじゃない」という夢想的なプライド…。マークライランスの怪演が本当に素晴らしかった。

ジェイソン(大統領の愚息)も最高のハマり役、安定のジョナヒル。グリーンミックスジュース、貧乏ゆすり、「労働階級め!」、学歴厨、無教養…とにかく愚かな二世代を徹底的に揶揄していて最高に面白い。

画面の端まで芸が細かいのも凄い。恐竜の話をしてる時に恐竜の着ぐるみを着た男が背景にいたり、flammableのサインの横でタバコ吸ったり(そんな危機管理だからああなるんだよ…)、シャベルの価格が高騰する伏線をサラッと回収したり、アダムマッケイ監督の一流さはこういう細かい手数の多さでも伺えるよね。

プライベートライアンのパロディと、あと最後の方にホームアローンのオマージュがあったのは気のせい?

毒をもって毒を制す、じゃないけど、こういったあからさまに攻撃的な風刺映画をもって現実社会を叩き直すように我々も生きていかなければならないな…と感じた。
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