ブタブタ

空白のブタブタのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.0
或る意味『MAD MAX』だった。
見る前は「川崎万引き少年死亡事故」を元にした万引き犯の自業自得とその毒親による理不尽な逆ギレ案件だと思ってたけど、開始三十分程で古田新太演じるあの狂気のオヤジに完全に感情移入してた。
愛する娘をある日突然余りにも無惨に奪われたオヤジの復讐譚である。
ただしその復讐の相手は余りにも巨大で実体がなく、それでいて空気の様に何処にでも存在し、その正体は「自分自身」でもあるかも知れない。

「今では敵は姿を表さず空気の中を漂っている」(Mの台詞『007ノータイムトゥダイ』より)

マスコミ・学校・世間というマクロなハード面から親父に立ちはだかる敵、そしてオヤジの周囲の人物というミクロなソフト面から親父を内部から精神攻撃する様な敵達。
その全てを敵に回して果ての見えない親父の孤高の戦いは続く。
この親父の戦いが絶望的なのは娘はもう戻らないのは当然ながら「真実」に辿り着く事は絶対にないという事が予めわかってしまってるという事。
そして何と言っても親父に敵・復讐対象として認定された松坂桃李演じるスーパー店長がもう最高である。
この絶妙な煮え切らなさとハッキリしない感じが更にイライラを加速させる。
本来ならこの人も完全に「被害者」である筈なのに見る側の感情移入を一切許さない。
大事な事は何も語らず、常に無表情でかと思うと薄ら笑いを浮かべヘラヘラしている。
やる気が感じられず全てに対して適当で無関心。
それ故に「此奴は手強い」と感じる。
「基地外」VS「無気力」
『GODZILLAvsKONG』
『BATMANvSUPERMAN』
である。

ミッシェルガンエレファントの『KING』という唄の歌詞に
「腐ってるから刺されても痛くない、腐ってるから溶けても感じない🎶」
つまり腐ってるからこそ或る意味最強👊みたいな、店長は実の所親父に勝るとも劣らないクズ人間であり、だからこそこの悲劇には決着もつかないし結末も着地点も救いもない。

互いに何となく離れていって、心を落ち着かせて折り合いをつけるしかない。
「時間が解決するしかない」
って結局は誰もが思う結論しかないのが虚しい。
娘の死によりクズ親父の中で何かが変わったのかも知れないけど、その代償が娘の死とは余りにも釣り合わない。

其れからクズ店長のラストシーンだけど「何そんな事で喜んでんだよテメェお前が悪いんだぞ(笑)」って乾いた笑いしか起きなかった。
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