真田ピロシキ

劇場版 きのう何食べた?の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

劇場版 きのう何食べた?(2021年製作の映画)
3.8
シロさんデレる。TVシリーズでは大体賢二が甘える方でシロさんには大切なパートナーという意識は強くあってもクールなキャラを通していたが、本作では冒頭の京都旅行に始まり賢二がやったのと同じように病気を疑い大心配して、賢二が若い同僚といる所を見て狼狽するなどシロさんの好きが炸裂する。更に賢二が髪型を変えたりダンディな姿を見せたりしてこれまでとのギャップ萌えが響くぜ。小日向さんとジルベール航も常に小日向さんが尽くしてた構図だったのがデレジルベールを見れてTV版を見てた人ならより楽しめる。花見のシーンは「よっしゃーそのままキスしやがれー」という気持ちが盛り上がること間違いなし。外されるんだけど。ちくしょーロマコメとして楽しいです。

だが本作はただのキュンな話ではなく、京都旅行からして裏があって、前の正月にシロさんの実家に賢二も招いて大変朗らかに過ごせていたのだが、シロさんのお母さんは頭では分かっていても息子が男の恋人を連れて家に来たのはストレスとなりしばらく体調を崩してしまった。このお母さんは昔は息子の"同性愛を治療するため"に高い壺を買ってたような人で、どんなに本人が努力しても一度築いた壁を乗り越えるのは大変に難しいことを見せられる。それにしてもこの設定は今だと自民党の大親友統一教会がダイレクトに感じ取れて恐ろしいですね。

賢二は賢二で、絶縁している父が死んで葬式のために母の実家に行った際に母の美容室を継がないかと持ちかけられて、母と姉2人は賢二がゲイであることに何の口出しもしてなくてシロさんの写真を見せられた時もキャーキャーしてるくらいであるが、「いつまでも一緒にいるとは限らないし」という理由で賢二の孤独死を心配して話をしている。これが男女だったら結婚して子供ができてという絶対ではないにしろある程度のセーフティがあるのだが、現状同性愛者にはそれは非常に心許ない。同性愛者に取っての老後の心配を投げかけてて中年カップルが主人公の意味はここにある。結局のところ同性婚すら頑なに認めようとしない国が悪い。くたばれ保守という名の右翼政治屋共と統一教会。ジルベールが孫ができてはしゃぐ佳代子さんに不機嫌になるのも、自分達はそういうマジョリティが享受しているアタリマエから疎外されていることへの不満ではなかろうか。

またシロさんはホームレスによる殺人事件の裁判員裁判を受け持つことになるのだが、依頼人は冤罪であるにも関わらず9年の刑を言い渡されてしまって、これまでの人生で散々に蔑まれ踏みつけられた経験から闘う意欲を完全になくしてしまっている。ここに同性愛者としての自分が重なって見えたのは明らか。面倒な弁護は極力避けようとするシロさんであるが、ここで自発的にやる気を見せたのは映画から社会に対する強固なメッセージとして映る。それだけにこの裁判の顛末を省いたのはやや残念。

しかし先に言ったロマコメとしての軽さとシリアスなLGBTQ 映画としての問題提起を同時に描けてて良い強度の映画として仕上がっています。シロさんの実家に関しては安直な全面解決をせずに上向きになる途上で終わらせていることもファンタジーではない地に足のついた物語として見えて誠実。ただTwitterで当事者の人達が内野聖陽の姿勢について疑問を抱かれているのを見たので、その点は魚の骨のように引っかかるところ。