しゅんまつもと

君が世界のはじまりのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

君が世界のはじまり(2020年製作の映画)
4.3
夜道を照らす一本の街灯をステディが捉えるファーストカット。しばらくすると遠くからパトカーのサイレンが聞こえて、赤い光が近づいてくる。パトカーのヘッドライトが反射し光の粒になる様を見て、開始数十秒で良い映画だと確信した。"何をどう撮るか"にとても意識的だし、如何にして暗闇にいた人物たちに「光が当たる」のかということに終始している。奇跡みたいな光を捉えたショットがいくつもある。個人的に、こういう要素が映画が物語を越える瞬間だと思っていて、そんな瞬間がギュッと集まった映画だった。
願わくば、たくさんの人がいる劇場で観たい。

光に意識的であるということは、反対に暗闇の捉え方にも魅力があって、夜道や従業員階段、立体駐車場のシーンもとても良い。夜の町に浮かび上がるタンクの空虚さ(内側がわからないという物語的なテーマにも繋がる)はなんとも不気味だけれど、閉店した夜のショッピングモールには何処か胸が躍らされる。

優れた青春映画には決まって死の匂いがこびりついているのは今も昔も変わらないけれど、この映画はその何歩か先を行っていて、「分かり合えない人の気持ちを想像してみる」というところに着地する。誰かの命を奪ってしまった人や、自分で人生を終わらせることを選んだ人。SNSで中傷する人や、差別に苦しむ人。あなたはわたしかもしれないし、わたしはあなたかもしれない。悲しみの川は繋がっているのだから。大切なのはきっと、わかった気になる感情移入じゃなくて想像しようとする気持ちのはず。

舞台が関西だからというのもあるかもしれないけれど、お好み焼きやたこ焼きという「混ぜ物」が執拗に食卓に並ぶのも良い。チャーハンもそれに近い。
所々、むず痒くなる演出はあるけれど、なんかそうまでしても撮りたいものがあるんだろうなあと思えて全て許したくなる。ラストとかも、グラウンドの水たまりに反射する空という奇跡みたいなショットで全て掻っ攫っていく感じ。そこからのタイトルバック『My name is yours』でガッツポーズ!!!

役者陣もメインから端までみんな魅力的。松本穂香さんは言うまでもなく、特に中田青渚さんとかちょっととんでもない。