ShinMakita

君が世界のはじまりのShinMakitaのレビュー・感想・評価

君が世界のはじまり(2020年製作の映画)
2.5

大阪の府立高校に通う縁(本名ゆかり)と琴子は幼馴染の2人。美人で学年1のモテ女でありながらガサツな琴子とは対照的に、縁は大人しい本好きで、成績もトップの女の子だ。ある日2人が学校の廃倉庫で授業をサボっていると、1人の男子が涙ぐみながら佇んでいる姿を目撃する。泣いてる男の姿に胸がキュンとなってしまった琴子は、翌日からその男子・業平に強引なアプローチを開始する。

業平と同じクラスの純は、父との不和に悩む女子。学校では明るいが、放課後独りになると、帰宅が嫌でショッピングモールで時間を潰している。ある日、モールの駐車場でクラスメートの男子・伊尾を目撃する。伊尾は東京から越してきたばかりで、義母がこのモールで働いている。どうやらその義母とただならぬ関係のようだ。彼のクールなそぶりに惹かれてしまう純だったが…



「君が世界のはじまり」



高校生の群像劇、しかも舞台が大阪。ノリの明るいキラキラ映画なんだろうな、と思い込んで前情報無しで臨んだ本作。

実際は、明るくもキラキラもしていない映画でした。

以下、ネタバレが狂いそう。

➖➖➖➖

ティーン映画って最低でも「成長」と「家族」が描かれていないと俺は納得しないんだけど、本作はきちんとこの2つをクリア。特に家族=父親との関係は物語の本質になっています。

もちろん本作はそれだけではありません。いきなりアバンで「高校生が父親を殺害して逮捕」のシークエンスで始まり、ティーン映画らしからぬ不穏な空気が漂ってきます。この短いシーンがクリシェでありながら素晴らしいのが、始まりに蛍光灯のカットがあり、鑑識官の青ジャンパーに「大阪府警」の文字が映る点。後にこのシーンはリフレインされるんだけど、蛍光灯カットがその予兆として機能します。大阪府警の文字は、舞台が大阪だと明確にする意味がありますね。琴子と縁が登校するシーンから本編が始まり、会話や校門のショットでそこが大阪だとわかります。ユーモラスな先生との鬼ごっこシーンの中でも、「この学校の生徒が父親を殺す/殺した」んだろうなと不安に思いながら観てしまうのです。その前に、純と父親の寒い空気のシーンもインサートされているし、笑いを挟みながらも、不穏で緊張感が持続していくんです。プロットは「縁&琴子&業平」編と「純&伊尾」編と2パートを交互に見せるんですが、そのどちらも「父親を殺した」という結末で成立するんです。この5人のうち、誰が父親を殺したのか!?そのサスペンスを孕んで映画は進むんですね。
先生との鬼ごっこシーンで、サッカー部主将・岡田が見せる表情一発で、彼が琴子に惚れているのが判ったり、タンクやモールの描写の巧さ、セリフの実在感、ブルーハーツの効果的引用などなど、演出面でふくだももこ氏の腕の確かさを感じられました。特に深夜のモール場面が良かったなぁ…ブレックファーストクラブの変法ですよね。「人のいないショッピングモールでやりたい放題」の高揚感は、もしかしたら「ゾンビ」以来かも知れない…^_^


というわけで、なかなか良かったです。アルプススタンドの偽善ぶりが気になるヒネくれた人間には特に刺さる、ティーン映画の逸品。観るべし!
ShinMakita

ShinMakita