Aya

タイガーテール -ある家族の記憶-のAyaのレビュー・感想・評価

3.6
#twcn

初監督作とは思えない、北京語のセリフが多いものの、見事なアジア系ザ・移民ものアメリカ映画。

「フェアウェル」が公開延期になり、心底悲しんでいた私への施しでした。

監督は私とほぼ同年代の台湾系アメリカ人、アラン・ヤン。
ハーバード卒のテレビプロデューサー。

舞台は現代のアメリカ。
主人公グローヴァーを演じるのは「フェアウェル」にも参加している香港出身のスター、ツィ・マー。
母の葬式を台湾で済ませ、帰国したグローバーを、少し距離のある娘のアンジェラが家まで送ってくれる場面から始まる。

洗い物は残して行ったが、そこそこ綺麗にしている家で若い頃を思い出す。

台湾で母と一緒に工場勤めでハードな仕事に就く若いグローヴァー。
金を貯めてアメリカへ渡ることを夢見る矢先、工場長の娘ジェンジェンとの縁談話が持ち上がる。
しかし彼には幼なじみの想い人、ユエンがいた。

過酷無労働を続ける母を心配し、自分の夢を叶えるためにこの縁談を引き受け、晴れてアメリカへ渡るグローバーとジェンジェン。
想像していたアメリカ生活とは程遠く、NYの物価は高く、アパートはボロ屋。

なんとか仕事を見つけ、DERIで真面目に働くグローヴァー。
慣れない土地で家事に勤しむ元お嬢様のジェンジェン。
故郷が恋しくなるのも仕方がない。移民あるあるでしょうね。
ジェンジェンには友達ができ、グローヴァーは懸命に働いたお金で彼女にエレクトーンをプレゼントする。

グローヴァーにとっては野心あっての結婚だったが、ジェンジェンの人柄もあり、お互いを大切にする良い夫婦としてしばらくは暮らしていた。

だが、ジェンジェンは少しづつ変わり始める。
夫の不在が寂しく、友達の家に入り浸り、家事などが疎かに。
そしてジェンジェンにもまた台湾にいる頃から教師になることが夢だった。
結婚して渡米し、家庭に入ってからは家にいて家事ばかりの日々。
彼女も妻、母ではなく1人の女性として生きる目標が育ってゆく。

そんな中でもグローヴァーにはもう一つ計画があった。
それは故郷の母をアメリカに呼び寄せること。
それもうまくいかず、ジェンジェンの学びたい、という気持ちは古い考え方のグローヴァーに取っては面白くない。

そして、ジェンジェンが妊娠し、グローヴァーは大切なレコードも手放す。
若い2人の夢は移民として他国で生きること、そして夫婦として生きることですこしづつヅレが生じる。

大人になった可愛い娘のアンジェラは結婚を控えているが、グローヴァーは反対している。
相手の経済的な部分や娘の仕事。
すべて娘を心配するうざい父心故。

若い時は希望に満ちた青年だったが、国を変え、暮らしを変え、生き方を変えることで彼の人格が変わってしまったように映る。
その理由はなぜか?

娘は最初から父に対して違和感を抱いていたので理解できない。

妻は理解できる。彼は最初にあった時の彼ではない。
奥さんジェンジェン役のフィオナ・フーは中国・カナダの映画プロデューサー。

そして、娘のアンジェラの言うことってたぶん、アジアに限らず移民2世としてアメリカで育ったオーソドックスなケースかと思いました。
移民あるあるー!!
努力と根性で富を得て、自身が苦労したが故、医者か弁護士になることを子供に強いるアジア系の移民親に育てられる2世あるあるー!!

親子で全く異なる苦しみを抱える、アジア系1世、2世の移民。

主人公グローヴァーの野心あふれる青年期と疲れ果てた中年期を対比してみせるだけでも、とても苦しそうに映る。
が!
1人静かに暇な生活を送る父はSNSに手を出し、若い時の思い人ユエンをチェックするとヒットしたー!!
ユエンはメリーランドで暮らしていた。

ユエンとコンタクトがとれたことで急に活気付くグローヴァー。
中年のユエンを演じるのは、これまたオックスフォードとハーバード卒の才女!ジョアン・チェン。彼女は女優というよりはプロデューサーなのかな?

話自体が超リアル。
めちゃあるあるー!なんだけど、そのあるあるー!ってよくアメリカのドラマや映画で長く脇役の人物たちが演じ、語ってきた、あるある。

それが2020年。
オールアジア系、アジア人キャストによって主観としてよく表現される。
自分がアジア人だから共感するのかも、とは思わない。

他の移民だってそうだろうし、移民でなくても親子関係や、意図せず、自分の計画と異なる人生を送る多くの人の心に刺さると思う。

全体的に思い出されるザ・台湾の青年期の記憶世界がとてもいい。
音楽と青春とファッション。
多分これはグローヴァーの中で美化されたものでしょう。

上記した台湾世界は暗い場面が多く、アメリカ世界の現代は明るい昼間の場面が多いので、雰囲気で語ってみせる。

そして話のテンポがとてもゆっくりとしており、その場面ごとに思考を巡らせ、その世界観を感じる間が用意されている。

これは腕、あるなあ。
そら「フェアウェル」でアークワフィナがGGで女優賞取っただけのことはある。
みたいんですけどお?!
A24様あ!!


日本語字幕:吉野 なつ美
Aya

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