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男はつらいよ 寅次郎の縁談のbluetokyoのレビュー・感想・評価

3.5
身も蓋もなさすぎ。マドンナ史上、もっともデンジャーなマドンナ、あるいは、腹黒マドンナ。寅さんが冷静に対処したのは、年の功ということか、海千山千ということか、それでも、さすがに、ぎょっとした表情。渥美清さんの演技力は素晴らしい。それにしても、満男くんの就活の苦しさ、痛いほどわかるなあ。思い出してしまったよ。

簡単にあらすじ。
就活にいそしむ満男くん。10月になり、さすがに焦ってくる。まだ、この時代だと、就活は遅いんだよな。いまは、もっと早いんだっけ。たしか、就職決めてから、卒論だったかな。
どこの会社に就職、ではなく、それ以前に、就職自体に疑問を持ってしまうと、もう、就職なんて、絶対無理なのだ。満男くんの気持ちはよくわかる。
こういう人は、給料が安くても、自分の好きな道に進むのがいい。だが、この時代、そういうのはないんだよな。満男くんは吹奏楽団かなんか、やっていたので、と言っても、大学のときまで続けていたわけではないしなあ。大学の吹奏楽団は、レベルが上なので、ついていけねえなあ、なんて、考えて止めてしまったのかも。

で、満男くん、就職が決まらないので、ブチ切れて、旅に出てしまう。行き先のない旅。たぶん、頭のいい満男くんのことだから、卒業までの単位は取っちゃっているんだろうね。たまたま乗った列車は瀬戸内海方面。

ああ、どうしたもんだと、心配なとらやの面々。そこへ、寅さんが帰ってくる。
さらに、満男くんから、自分は無事だというお土産小包も届く。

じゃあ、オレが行ってくるよ、と寅さん。翌朝には、満男くんのいる琴島へ。

一方、満男くんは、琴島で、漁や農作業を手伝ったりして、充実した生活を送っている。しかも、島の診療所の看護婦、上田亜矢さんに懐かれて、本当に言うことなしな生活である。(いったいどういう伝手で、琴島まで辿り着いてのか、説明があったのかな)

そこへ、寅さんの登場。満男くんを迎えに来たわけだ。満男くんは、帰りたくないと拒否るので、寅さんも泊まることになる。

満男くんが泊まっている家というのは、田宮善右衛門という老人の家で、そこには、坂出葉子さんという女性が、病気療養のために同居している。

満男くん、寅さんが泊まると言い出すと、ゲッという表情。これが伏線になっている。どの程度の伏線なのかはわからない。
葉子さんが美人なので、また、寅さんが恋愛騒動を起こすんじゃないか、という程度なのか、それ以上なのか。

ということで、島を上げての歓迎会。
なぜか、葉子さんは、寅さんの手を握ったり、肩にもたれかかったりする。さらには、タンゴを踊ったときに、スカートがふわりとめくれたりする、エロサービスである。
まったく、水商売の女の客引きである。
寅さん(でなくても)は、人生経験が長いので、危険だな、とは感じているようだ。
葉子さん、満男くんには、料理屋の女将とは言っている。いや、島では、そういうことになっている。

ということで、寅さんは、退散することにした。そのとき、田宮善右衛門から話を聞く。あちこちに女がいて子どもを産ませまくってしまった、葉子さんもその子どものうちの一人であるらしい。たまに、ふらりとやって来て、神戸に帰っていく。
他の子どもたちは、財産の分け前を貰ったら寄り付かなくなった。いまでは、葉子さんだけが、やって来るということだ。

このときは、悪天候のために、定期船が欠航で、結局、島を離れることは出来なかった。

葉子さんと寅さんは、金比羅宮へ。

帰りの途中、うどん屋で食事。
このとき、葉子さんは、寅さんに本当のことを言ってしまう。

神戸の料理屋は、すでに、売却してしまった。
つまり、銀行からの融資で、店を拡げたが、経営が立ち行かなくなり、料理屋は手放し、その上、多額の借金が残ってしまっている。

バブルのころはよく聞く話だ。とにかく、銀行側でカネを借りてくれ、ということだったのだ。で、バブル崩壊、貸し剥がしである。

どの程度の借金なのだろう。料理屋を経営していても、到底、返せないぐらいの借金、だろうか。サラ金でなくてよかったが。

さらに、なぜ、葉子さんが、田宮善右衛門のところへ、ふらりと現れるようになったのかという、理由がわかってしまうのだ。
借金をなんとか、肩代わりして欲しいのである。だが、言い出せない。ほかの異母兄弟たちは田宮善右衛門に、たかっていったのに。

寅さんが言うように、「不幸せに育った人間ってのは、妙に情が深けえもんなんだよ」、ということかもしれない。

ただ、葉子さんが巨額の借金を負っていると聞いたときの、寅さんの表情はまさに、警戒信号、いや避難命令の発令である。

普通の考えて、葉子さんとどうにかなったとしたら、いつの間にか、保険に入らされていて、殺されるんじゃないか、と考えてもおかしくはない。
本気で、保険金殺人を疑ってもいいのである。

殺されないまでも、もちろん、結婚したからといって、負債の保証人に自動的になる、なんてことはないのだろうけど、結局は、そういうふうになってしまうよな。葉子さんにとっては、藁にもすがりつきたい気持ちなのだ。寅さんは、その藁なのである。

ということで、満男くんと葉子さんとの対話である。なにも説明がないので、非常にわかりにくい。解釈が必要なシーンである。
葉子さんは、実は、小料理屋は手放していて、多額の借金を負っている、ということは、寅さんしか知らない。
満男くんにとって、まだ、葉子さんは、小料理屋の女将である。

葉子さんは、まず、満男くんに、寅さんは独身か? と訊ねる。なぜ、こんな、最初からわかっているようなことを聞くのだろうか。

寅さんの外堀を埋めると同時に、満男くんを味方にしたいのである。
寅さんが結婚で片付くなら、寅さんの身内である満男くんとしても、賛成すると踏んだのである(もちろん、寅さんは、葉子さんの多額の借金については、まわりに言い出せない、ということが条件だ)。

ところが、満男くんは、ずっと独身だ。もてないから独身なのだ、と答えた。
普通なら、寅さんは、楽しいから、女性にもてなくはないのだけど、いろいろとやむにやまれぬ事情があって、いまでも独身なんです、と答えるはずなのである。だが、寅さんの理解者である満男くんは、そんな浅薄な答えはしないのである。

しかも、直前に、寅さんと同じような経験をしているのだ。つまり、看護婦の亜矢さんの猛アプローチを断ってしまったのだ。当たり前といえば当たり前だが、満男くんは、琴島で、漁や農作業の手伝いしかしていない身分なのだ。アルバイトですらない。タダで手伝っているから、島民も有難がっているだけなのだ。
こんな状態で亜矢さんと結婚すれば、生活は成り立たないとわかっているのである。

葉子さんは、その答え方に対して、むきになって、説教口調で反論する。
もちろん、予想していた答えとはまったく違っていたということもあるが、もう一つ、(借金のために)そういう寅さんのようなもてない男にすがらなければならない自分が侮辱された、と思ったからだ。
あるいは、なにか、やましい目的で、寅さんに近付いているんじゃないのか、と疑われている、とも思ったことだろう。

葉子さんは、虚勢を張って、説教口調で、言い放つ。
男の魅力はね、顔やおカネじゃなのよ。満男くんは、まだ若いから寅さんの値打ちがわからないのよ。
まったくの、めちゃくちゃな理屈である。顔はともかくとして、カネがなくても愛は育めると考えるのが若者だ。カネがなければ、生活が成り立たず、愛は保てないと考えるのが大人だ。
そもそも、カネ目的で田宮善右衛門に近付いているのは、葉子さん自身である。
カネのために寅さんに近付いているという疚しさを隠すために支離滅裂になってしまっている。

満男くん。だったら、伯父さん(寅さん)と結婚してくれればいい。そうすれば、まわりのみんなは泣いて喜びますよ。

それができないから、満男くんに話を振ったわけである。もうこれまで、ということで、葉子さんは、怒って、立ち上がって行ってしまう。

庭先を横切るときに、寅さんとばったり。月がきれいだとか、話し掛けるが、微妙に、距離を取る寅さんに、葉子んさんは完全に諦めて、やはり、行ってしまう。

満男くんは、葉子さんに伯父さんは葉子さんのことが好きだと、言ってしまった、と寅さんに言った。

寅さん、慌てたように、オレは明日の朝一番の連絡船で帰る、と言う。
これはもう、完全にやばいのである。
ということで、寅さんと満男くんは、琴島を離れるわけだ。

寅さんには逃げられ、借金返済のめどは立たず、がっくりしながら、葉子さんは、神戸に帰ろうとしている。

田宮善右衛門に別れを告げているとき、田宮善右衛門は、葉子さんに、土地の権利書といくつもの株券を渡すのであった。

寅次郎くんが、葉子さんが多額の借金を抱えて苦しんでいると言ってくれた。気が付かなくて済まなかった、と言いながら。

泣き崩れる葉子さん。

琴島の自宅の土地は、それほど価値はないだろうけど、株券の方は、他の子どもらには渡さなかった、最後の虎の子の株券の数々だったはずだ。
田宮善右衛門も、薄々は知っていたのだろうけど、寅さんに言われて、決心したのだろう。
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