えむ

恋する寄生虫のえむのレビュー・感想・評価

恋する寄生虫(2021年製作の映画)
3.7
その虫は、恋に寄生する…

その恋は、頭の中に住む、寄生虫のせい。その寄生虫はパートナーを求め、恋心を抱かせて、宿主を恋に落ちさせ、自らの遺伝子を残そうとするのだ…というちょっと異色のラブストーリーです。
設定こそ異色ですが、あくまでラブストーリーであって、ホラーとかSFとか、ファンタジーとかでもありません。

この柿本監督は、そもそも映画監督という訳でなく、ミュージックビデオやCMなどの映像作家さんなので、この作品もドラマストーリーを楽しむというよりは、かなりストーリー性が高い、ハイクオリティなプロモーションビデオやミュージックビデオを見るような気持ちで観る方がふさわしいです。

画で語らせるつくりというか、観る方のイマジネーションで、2人の関係性などの移ろいを補完していく必要があるので、懇切丁寧に心情を描くドラマ映画のつもりで観ちゃうと、何だ何だ?ってなることはあるかもしれません。

これに関しては、林遣都&小松菜奈という、力があって表情や佇まいで見せられる、若手実力派のふたりでなければ成立しない作品ではあると思うし、この特殊なストーリーは、映像作家でないとまあ表現は出来なかったかもなあ…

世界が自分を拒絶していると思っていた男と、世界を拒絶しようとする少女。
その2人が、最初は警戒心むき出しの目でお互いを見ていたのが、だんだんそれが和らいで、相手を好ましく思う情が宿り、近づき、マスクやヘッドホンが外れ、距離が近づく。
それだけで変化が分かるのは、目力も瞳の表情も豊かなこの2人と、画の力のおかげと言えます。
それに、ゲーゲー吐いても、鼻血出しても画が保てるって、ある意味凄いよ…
(マスクがあんなガバガバなんて、どんだけ顔ちっさいんだ!とかも)

ストーリーの軸に関わるのは4人だけというシンプル構成も、それぞれに力がないと無理だし、今までにはなかった、ちょっと新しいタイプの作品だと思います。
好みはあるかもしれませんが、私は好き。
映画っていうより、『映像』かもしれないけど、そういうのもあっても良いよね、と。

ちなみに、原作小説はラストが違うんだけど、映像の力を押し出した作品であることや、万人受けする題材でもないだけに、これはここで美しく終わっておくほうが、確かに映画らしくて良かったなと思います。
えむ

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