TaichiShiraishi

アオラレのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

アオラレ(2020年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

ターミネーター風のBGMまで流れるふざけ気味の予告を見つつ、気楽に見るつもりだったのに、かなり恐ろしい映画だった。おふざけ要素ゼロ。



ラッセル・クロウが演じるイカレた男が、理解不能な怪物なわけではなく、社会の歪み、底の抜けたセーフティーネット、周囲の無理解ゆえに徐々に狂った人物であることが、最小限ながらも演技力や細かい演出、設定で伝わってきて、シャレにならないと思わされる。



本当に頭がおかしいわけではなく、失うものがなくなったかつての常識人、論理的思考力をもった人物の暴走であるがゆえに「ありそう…」と震え上がった。



主人公の巻き込まれる親子の母親も何の落ち度もない被害者としては描かれておらず、彼女の人間的問題ゆえの被害の拡大もしっかり盛り込まれており、事件解決になかなか向かわない展開に社会全体の人心の荒み、警察の人手不足など社会派要素まで入っている。



それが決して押しつけがましくなく過不足なくサスペンスを盛り上げる装置として機能しており、我々が常日頃感じているであろう「いつまでたっても完璧には制御できない」走る凶器としての車の怖さもしっかり描かれているのは見事。



見ている最中全く油断できず、見終わった後も運転はもちろんタクシーに乗ったり横断歩道を渡るのすら本作を思い出して怖くなってしまう新たな交通ホラーの傑作。
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