せぐうぇいX号

あるアスリートの告発のせぐうぇいX号のレビュー・感想・評価

あるアスリートの告発(2020年製作の映画)
3.7
思った以上に根深い内容だった。

冷戦が生んだ最高傑作ナディア・コマネチ、そこから始まる体操業界の若年化、自己防衛能力に欠如した少女たちを喰い物にしたある医師の暴挙。

日本のメディアではあまり話題に上がらないこの業界について、歴史的背景から丁寧に紐解いてくれるドキュメント作品になっている。当時の競技映像を交えて展開される被害者たちの告発は胸に迫るものがある。

極めて過酷な鍛錬を強いられていた幼き選手たちにとって、唯一の心の拠り所となっていたのが本作の巨悪の1人であるナサール医師。何より恐ろしかったのが、ナサール医師への制裁がすでに実行されている今もなお、彼に対して否定的な発言をすることを本能的に拒んでしまう自分がいると、彼女ら自身が発言していることだ。

ナサール医師に対し面前で証言を行った被害者が、今初めてオリンピアンとしての誇りを持つことができたと語ったのも大変印象的だった。


一つの見方としては、勝利を正義とするアメリカの国民性が生んだ悲劇とも言われる本件。
オリンピック選手を育て上げるほどの厳しい指導と虐待、その明確な線引きは難しいだろうが、小さな声一つ一つに耳を傾けられる風土がまず必要なのは間違いない。