Sachika

あのこは貴族のSachikaのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.3
東京生まれの箱入り娘と、地方出身の庶民。
それぞれの生きる領域に グンと差の開いた、並行の世界線で、些細なことがきっかけで、2人の女性の世界が交差する物語。
一歩だけその境界線を飛び越えてみれば、見える世界は広がり、どの階級でも皆同じ様に悩み、同じ様にしがらみの中で暮らしているんだと気づかされる。

口には出さずとも伝わるシーンや、物事を描きすぎない事の、何とも美しいこと!
たとえストーリーに劇的な凹凸がなくても、つい入り込んでしまう様な共感がたくさん織り込まれていて、その一つ一つが素晴らしかった。
そして物語の意図を発見出来るような、些細な描写がとても丁寧で、愛おしくなる。
そんな素敵な映画でした。















以下細かいシーンのネタバレ




わたしも東京都生まれ・東京都育ちだけど、どちらかといえばやはり庶民の美紀の方が共感することが多かったかなあ。
実家や地元のワンシーンも取っても、友達との会話にしても、描写がすごく細かくてリアルに感じた。
マグカップ、わかるわかる。
脱毛、わかるわかる。

一方の華子の方は、しきたりや礼儀作法に関して、とても細かく描かれている印象。
そういった作法が人前で出来るように、小さいころから育てられてきたんだなっていうのが、言葉に出さなくてもひしひしと伝わるのがとてもよかった。

また、細かいシーンの数々がすごく境界線を表していた印象。
親と美術館に行く話やアフタヌーンティーのくだりもそうだけど、各々の思う「普通」の違い。
そして鞄ひとつでも、華子はシャネルやグッチ等の高級ブランド+毎日違うものを使っていて、なんとなく着たボーダーの服もきっとお高いんだろうなあと感じさせる。
美紀は比較的買いやすい金額のブランド(ヴィヴィアンウエストウッドとか)の鞄だったかな。

そして松濤という都内屈指の高級住宅街に生まれ、子どもの頃からそこで育ってきた華子。
何度も出てくる「松濤」の圧倒的破壊力がすさまじい。
反対に、地方で生まれ、"東京のシンボル"である東京タワーが見える部屋を借りる美紀。
タクシーと自転車という移動手段にしても、そういった、目に見える格差が細かくて、発見の嵐だった。

描写でいうと、幸一郎の雨男の話も良かったな。
「大事な日はいつも雨が降る」
美紀との別れの日も雨が降っていたのは、少なからず美紀と会うことを大切に思っていたんだろうなあと考えて、心臓がギュッとなった。
そして選別に地元の物をあげる、美紀のいじらしさ…!

それから自転車のシーンがどれも好きだった。
美紀の二人乗りシーンも、華子が二人乗りの少女たちに出会うシーンも、華子が逸子と一緒に子どもの三輪車を借りて楽しむシーンも。
特に道路の端と端、少女たちの振る手に恐る恐る応える華子の姿が何とも晴れやかだった。
ずっと安全で守られた箱の中、タクシーで移動していた華子と、自転車移動の美紀。
生き方だけでなく、移動手段でも交わっていく感じが、上手く言えないけど良かった。

本当に、書ききれないほどに書きたいことがワンシーン毎にある映画。
副音声上映があるそうで、いままで行ったことがないけど、この作品に関しては行ってみたいし、もっと細かい設定を聞いてみたいな。


それから、キャラクターでいうと逸子が好きでした。
あの世界で、とりわけ「自分」を持っている。
どの階層だとか、この階層だからこう生きなきゃみたいな縛りがなく、自分の世界で生きている逸子。
そのおかげで美紀と華子が混じるきっかけになる。
まだ手探りでも、いつか逸子みたいに自分の生き方を見つけて行きたいな。
Sachika

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