KnightsofOdessa

本気のしるし 劇場版のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

本気のしるし 劇場版(2020年製作の映画)
4.5
[受動的人間の男女格差]

初深田晃司。受動的で優柔不断、重要な決断はいつも先送りだが未知なる刺激は漠然と求めているという森崎ウィンは、見れば見るほどに嫌いだった同級生の影がチラついてムカつくのだが、性格はどちらかというと私に似ていて余計に腹が立つ。それにしてもドラマを短縮して4時間の映画にしちゃうって色々すげえなと。そもそも最近"ドラマを短縮して2時間にしたんすか?"と疑いたくなるような精度の挿話をぶん投げる映画や、"その設定はドラマ化したら面白そうだな"という色々過多な映画が増えている中で、それらを逆行するようにドラマから映画にして、しかも4時間って。

ということで、辻には妙な親近感があったのだが、本作品の主人公は彼じゃなくて浮世ちゃんだと思っている。細川←→辻→浮世ちゃん、辻←→浮世ちゃん→峰内の反復は、辻の行為を浮世ちゃんが繰り返していくことで、戯画的な存在としてレッテルを貼られていた浮世ちゃんが個人としての人間性を取り戻していく過程のように見える。辻は浮世ちゃんに付いた"ダメ人間"というレッテルを全身全霊で引き剥がした前半の視点人物ではあるのだが、中盤以降で彼に対して同じ役割を浮世ちゃんが担っていると分かる時から徐々に人間的な対等さが意識され始め、遂には完全に視点が入れ替わる。受動的だった浮世ちゃんが主体的になっていくことで、彼女を見ていた目線の存在に気付かされるのだ。ちなみに、冒頭と帰結でしっかり同じ灰色のつるーんとしたワンピース着てて、芸が細かいなと思った。

純化したファムファタールの結晶みたいな浮世ちゃんの設定に呼応するように登場するバブルガンと水鉄砲、火薬と爆発という意味での花火が眩しい。日本へのローカライズがこうなったというより、伝統的なファムファタールからの卒業としてのアイテムとも読める。もう一回観よ。
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