みかんぼうや

青春の殺人者のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

青春の殺人者(1976年製作の映画)
3.7
この衝動性と躍動感。反体制的で、国家権力に対する怒りを散りばめつつも、同時に一個人の無力さを物語る作風。こんな尖った作品をデビュー作から送り出し、当時の日本映画界の賞を席巻する。紛れもなく、あの長谷川和彦の作品(新人のデビュー作でキネマ旬報1位は今でも超異例とのこと)。

今まで観た邦画全ての作品の中でも5本の指には確実に入れる「太陽を盗んだ男」は、本作の次に発表された作品で、この2本以降、未だに監督としては一作品も発表をしておらず、もはや“生ける伝説”と言われる長谷川和彦。

その独特の感性は、既に本作の時点で十分に滲み出ています。物語自体は、親殺しの若者の逃亡劇、という映画としてはそれほど珍しくない設定ですが、登場人物たちの強烈な個性、作品全体に感じる世の中への怒りが生み出す活力、後先省みずに突っ走る主人公たちの行動が、観る者をまさに“巻き込んでいく”不思議な魅力に溢れていて、どこか「俺たちに明日はない~ボニーとクライド~」をも思わせます。

衝動性と冷徹さがありながら鑑賞的でもある主人公の若者を演じるのは、今の姿からは全く想像もつかない50年近く前の水谷豊。脳のネジが2、3本飛んだ母親役を演じる市原悦子。そしてなんと言っても、吉高由里子のような面影もある可愛さや天真爛漫さと当時17歳とは思えぬ色気を兼ね備え存在感を見せる原田美枝子。キャストも大変魅力的。

物語や撮影自体は、さすがに「太陽を盗んだ男」ほどのスケール感と大胆さには及ばず、映画としての面白さは「太陽・・・」に大きく軍配が上がりますが、昭和邦画らしいパワフルさとドロドロした空気感が創り出す、長谷川イズムを十分に感じさせるエンタメサスペンスでした。
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