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スラローム 少女の凍てつく心のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

2.0
[体調管理、身体管理、性的搾取] 40点

カンヌ・レーベル関連でスポーツ映画を観るのは、パスカル・プラント『ナディア、バタフライ』に続いてこれが二本目。あちらは水泳だったのに対して、こちらはスキーである。主人公リズは母親に棄てられるようにスキーのエリート高校に預けられ、熱血コーチのフレッドにしごかれる毎日を送っている。同級生や先輩たちはフレッドの指導に疲れてハメを外しまくっていて、純粋に強くなろうとするリズは馴染めないし、それをフレッドが拾い上げて褒めるので溝が開くばかり。母親は早々に恋人を作ってマルセイユに引っ越してしまったので相談相手もおらず、一人孤独なリズはフレッドくらいしか頼れる大人がいない。

その関係性をフレッドが誤解し利用するには時間がかからない。男性コーチと女性選手という関係性から発生するハラスメント予備軍(例えば、冒頭でフレッドは個室でリズに下着になるよう要求し、体重を測って生理開始日を訊く)は、あまりにも連続的に性的搾取まで繋がってしまう。そこに明白な線引はないのだ。また、身体を痛めてコーチになったというありきたりすぎるエピソードも、本作品の普遍性を強調しながら、"てめえの身体は俺のもの"という徹底した考えの源になっているように思える。つまり、"俺のもの"だからこそ厳しい訓練と身体管理の先に性的搾取があっても、それが犯罪的行為であることに気付いていないのだ。

しかし、地獄は続いていく。彼女には逃げ場がなく、対外的な庇護者であるフレッドとの共同生活が続いていくのだ。スキーは上手くなりたい、でもコイツに隷従するのは嫌だ、しかし隷従して気に入られれば容易く上達する。外に出ても必ず宿舎に戻される。まるで両端にあるフラッグを往来するスラロームのように、リズの心は両極を往来しながら引き裂かれていく。映画のほとんどは彼女の当惑と混乱に焦点が当てられ、我々を当惑と混乱の渦へと突き落とす。少し前に観たナジ・ゾルターン『On the Quiet』もまた、音楽業界の先生による生徒の性的搾取を描いていたが、本作品と同様に決定的な結末を避けていた。明白な帰結を持つことが必ずしも良いとは限らないが、両方ともそこまで曖昧にしなくても良いだろうに、結局は問題を提示して放り投げてしまうのがちと残念。

ジェレミー・レニエっていつもこんな役ばっかりやってる気がする。ちなみに、フランスは15歳が性同意年齢らしいので、同意があれば問題はないらしい。同意があるとは思えないが…
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