九月

Summer of 85の九月のレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
3.8
観ている最中や終わった直後よりも、あとからいろんな場面が頭に浮かんできて、あれこれ考えてしまう。

16歳のアレックスと18歳のダヴィド。ふたりの恋愛模様については、同性を好きになった苦悩や葛藤が描かれる訳ではなく、好きになった相手が同性だっただけ、というような感じで、若いふたりが互いに夢中になる様子がとても瑞々しく描かれていた。
1985年の夏のノルマンディーの風景と、若くて美しいふたり、フィルム撮影のどこか懐かしいようなザラついた映像。ずっと眺めていたかったし、ふたりにはずっとずっとあの時のままでいてほしかった。
でもそれも単なる理想の押し付けだったということに、後から気付かされることに。

アレックスが後に自分の言葉で語るように、どんなに愛しても足りなくて、永遠に満たされることはない。感情まかせで衝動的な彼を見て、若さゆえの痛々しさにどこか身に覚えがあったりして、ちょっとむず痒い気持ちになったりもした。
初恋も10代の頃の記憶も、もう随分と前のことなのに、16歳のアレックスの目線で描かれる6週間の出来事を彼と同じ感性で見ていた気がする。
自分より先を進んでいるようなダヴィドに憧れながらも少し危うさも感じ、でも気がつけば惹かれている。

ふたりを引き裂くきっかけがなんとも人間らしくて、それが永遠の別れを呼んでしまうなんて残酷。
半ば強引に誓わされたような約束を守るアレックス。遺体安置所でまだ姿形のあるダヴィドと離れたくなくて抱きついてしまう衝動も、墓の上で死んだダヴィドを殴りたくなる気持ちも、どちらも理解できる。
ただ、じゃあどうすれば良かったのか、ということはいくら考えても分からず、終わり方もアレックスはそれで良かったのか…なんて思うところもあり、しばらく、いやこの夏中は反芻することになりそう。
ケイトが言っていたように、言わなくていい真実や本音は時に友情や関係をぶち壊しにするけれど、自分ひとりでは決して気付くことのなかった大事なことを気付かせてくれることもあるのかな。

「君の物語じゃない」と突き放される冒頭から、観る前に抱いていたイメージとは全然違う方向へと物語が進んでいって、あっという間に終わった。ひと夏の出来事をアレックスが文章にして書いた物語なので、多少の美化はあったのかどのシーンも綺麗で、爽やか。
観終わってからというもの、充実感のあとに訪れる喪失感や気だるさのようなものに襲われた。

クラブでのダンスシーンがとっても良かったなあ。一体どんな風に描かれるのだろう、と思っていた墓の上で踊るシーンも好きだった。 
九月

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