トムヤムクン

アナザーラウンドのトムヤムクンのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
4.0
『死に至る病』などで絶望や不安を論じたキルケゴールをエピグラフとして、中年の危機というありふれてながらも重大な人生の危機的状況を、血中アルコール濃度を常に一定に保つというトンデモ解決法で乗り切ろうとする中年教師4人組のドタバタ・ブラックコメディ。
酒を浴びるほど飲んだ時の一時的高揚と、アルコールが抜けてシラフにゆっくりと戻っていく重たい絶望感をそのまま再現するかのように、本作も高揚と沈鬱でムードが変化していきます。
知的階級の倦怠・憂鬱というこれまたあるある話でもあります。椅子にどっぷりと沈み込み、塞ぎ込んで酒を煽り煙草の煙を漂わせる序盤の中年男4人組は、文学や映画で幾度も繰り返されてきたメランコリーの姿で、それはどうしようもなく滑稽であり、それでいてなんとも哀切が漂います。
程よい酒は気分を朗らかにリラックスさせる薬になりますが、それは使い方を誤ると自分も他人も傷つけてしまう…。酒を飲んでも飲まれるなとはよく言ったもので、心理学教師のニコライの言葉が虚しく響いてしまいます。恩寵と中毒、習慣と依存症はあまりに近い…。
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