イトウモ

アナザーラウンドのイトウモのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.5
トマス・ヴィンターベアという人はトリアーの系列だと思っていたけれど、あの監視カメラ風の長回しがここでは、ホームビデオ風の飾らないカメラワークに変わって、ジョナサン・デミやガス・ヴァンサントを彷彿とさせるミニマルなドラマになっているのにちょっと驚いた。
つまり、2020年代の北欧から90年代アメリカインディー映画みたいなものが、でてくるとは!ということなのだ。

そもそも、うだつの上がらないおっさんのサークルがアルコールでささやかな非日常を手にする、という話自体、カサヴェテスっぽい。

冒頭、出かけようとする妻にマーティン(マッツ・ミケルセン)が声をかけるショットがある。画面の下半分に彼の顔半分が覆い被さるように映り、奥に出かけようとする妻の上半身が映り、声をかけられた妻が振り返ると妻の方にピントを合わせる。カットを割って、切り返しをしなのだな、と思った。

中盤で酔い潰れて帰宅したマーティンを捉えたよく似たショットがある。潰れて自宅の寝室で寝ているところを、また画面の下半分を彼の顔が占めて、上半分に、入り口から覗く妻の上半身。
ここで今度は切り返すのだけど、妻の主観ショットになって、暗闇の中に埋もれて消えそうになるマーティンの寝顔が映る。明らかに冒頭のシークエンスと掃除を成すのだけど、こちらにしか存在しない切り返し、そして溺れてそのままいなくなりそうになるマーティンの影が忘れられない