真田ピロシキ

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.8
アメコミヒーローには完全に飽きており、中でも特にバットマンとスパイダーマンは何度も映画化されてるのでほとんど新鮮味を感じない。ユニバースにしようが、キャラクターに新解釈を施してリランチとやらをしようが大差ない。良いから新しいキャラと新しい物語を作れ!半世紀以上前に生み出されたカビの生えた話を何度も見る気にはならないんだよ。アメコミオタクじゃないのでそんなものを必死擁護する義理はない。

そういう気持ちで見てたので最初はアニメーションの楽しさはあっても話には乗れずちょくちょく停止してはSNSを確認していた。マイルスがヒーロー活動のせいで父親のパーティーに遅れて白い目で見られるのはまたこういうのかよと既視感を覚え、インドでステイシー親子的キャラとのやり取りを見た時もちょっとアレンジはしたけどどうせ誤差のようなアナザースパイディやるのねと冷めている。グウェンの存在も結局金髪白人様を異性愛ロマンス相手として物語の主軸に置くのかと。これはこれで自分が白人に対して極端な見方をしている自覚はあるが、多様性を謳っておきながら没個性な金髪白人男を名目だけの新主人公にして、10年以上レズビアンを匂わせていた今のアイコンにしている大人気キャラをこのご時世になってもなおボカしてそのくせクィアベイティングには使ったストリートファイターⅥという見せかけだけの多様性ゲームと同じなんじゃないかと思い、あまり真面目に見れてはいなかった。

それが半分を過ぎてスパイダーマン軍団が揃いマルチバースの真実を明かしてからは物語に熱が籠る。細部を変えただけで散々見飽きたスパイダーマンのお約束はスパイダーマン世界を持続させるための運命。インドでマイルスがシン警部を救ったのはささやかな違いに見えて実は世界の運命そのものを覆しかねない大事。スパイダーマンと親しい人は死ななくてはいけないという安っぽさへの皮肉たっぷり。そしてマイルスの父も死ななくてはいけないと。更にお前のスパイダーマン化はイレギュラーで異常分子の手違いと罵られながらスパイダーマン軍団に抗うマイルスの姿は現実でマイルスが新登場した時に重ねられる。これは上手い話で、多分スパイダーマンと言うかヒーローコミック全般へのこのままじゃいずれ行き詰まるという思いが詰まっているのだと思う。実際そろそろアメコミ映画も飽きられてるでしょ。

そして噂のスパイダーパンク。「ヒーローはナルシストの暴君だ」と言いヒーロー扱いを嫌う。もはやアホの証明となりつつあるトロッコ問題を持ち出して1人を追いかけ回すスパイダーマン軍団を目にするとこの台詞が突き刺さりすぎる。命令は聞かない。気に食わない群れからは抜ける自由な精神。このパンクのありようは商業主義の塊であるアメコミに対する反抗のアティチュードとして輝く。もっともこのブランドの中で展開している限り保証されたパンクでしかないのが残念。この映画シリーズ自体が如何にアニメーションとしても優れていてもヒーローコミック自体を終わらせるまたは根本的に変革させるかと言うとそれは現実的に可能性が果てしなく低いのよね。マーベルを捨てろ、DCを捨てろ、スターウォーズを捨てろ、ガンダムを捨てろ、ジャンプを捨てろ、ストリートファイターを捨てろ、コールオブデューティーを捨てろ。CoDってまだ流行ってるっけ?まぁいい。古い体制を打破する新しい血が世の中には必要なのだ。