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Straight Up(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Straight Up(原題)(2019年製作の映画)
2.5
[私はゲイ?それとも、ストレート?] 50点

幼少期から"オカマ"と呼ばれて自分でもゲイであると思っていたが、最近になって違うかもしれないと思い始めた強迫性障害を持つ青年トッド(彼を見ていると『ビッグバン・セオリー』のシェルドンを思い出す)。笑えないジョークだけは超一流で困ったら笑えないジョークを言って無用な敵を量産し、周りとの付き合い方を尽く外してきた女優志望のローリー。ローリーの笑えないジョークにクソ真面目なトッドは動じないし、トッドの不思議な言動をローリーは疎ましがらずに打ち返す。惹かれ合うのも反目し合うのも些細なことであるのは他のカップルと変わらないが、二人の間を取り持つのは性愛ではない。神経質なトッドはそもそも人の体液が嫌いなので、相手の性別を問わずセックスをしたいと思わないのだ。

トッドの几帳面さを象徴するのが、彼を切り取るフィックスの画面だろう。埃一つないとさえ感じる人工的な画はそれだけ見れば小綺麗なのだが、トッドの感情を掘り下げない物語と悪い方向で共鳴してしまい、映画そのものがおちゃらけたお喋りに終始した空虚なものになっている感じが否めない。そして、中々触れられないが重要なテーマというだけに、やはりジェンダー・アイデンティティの揺らぎについての踏み込んだ議論を、"そもそも他人が好きじゃなかった"という思いで誤魔化し、強迫性障害を免罪符に煙に巻こうとしているのは如何なものか。ローリーが好きになったのも"カテゴライズなんてどうでも良くて、目の前にいる好きな人が好きなんだ"とまとめるには少々強引すぎる。トッドとロリーの関係性の発展を見守る展開になって以降は、ゲイかストレートかという悩みは父親による"恋人が出来ないのはゲイだからだと思ってた"という恒例となってしまった不謹慎なギャグや、仮装パーティに『熱いトタン屋根の猫』のポール・ニューマン&エリザベス・テイラー夫婦のコスプレをして行って茶化されるシーンなど消費物と化してしまうのも好きじゃない。

それでも、無機質な画面構成は物語にマッチしていないだけで精巧ではあるし、トッドやローリーのめんどくさいやり取りも長ったらしい割にテンポが良くて難なく観られるので、会話劇としては優秀。全体的に甘い議論だったが、その帰結は局所最適と呼んでいいだろう。パズルに興じるトッドとローリーの間に名前も分からない第三の男が乱入してくるのだが、彼がローリーの旦那なのかトッドのパートナーなのか、我々の知らぬ間にできた共通の友人なのかは明かされない。踏み込んだ議論を避けてきたが、激ヌルの帰結でなあなあにはしていないので、ここだけは及第点。
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