しゅんまつもと

私をくいとめてのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

私をくいとめて(2020年製作の映画)
4.2
食品サンプル、冷凍食品、クジラ、ワイン、果ては水滴、海。絶えず水分を連想させるキーワードが連なる。人は望んで誰かと恋をしていようが別のなにかを求めてしまうし、かといって一人でいたらやっぱり寂しい瞬間は訪れる。永遠に満たされない"渇き"と人は一体どうやって付き合っていくんだろう。"アラサーのこじらせ" と片付けられてしまうけれど、これってきっととても普遍的な人の生き方、他者との付き合い方の話だよ。
イマジナリーフレンド、雪と車という点で「もう終わりにしよう」との接続性もちょっと感じたり。

そんなこんなで(世間的に大分される)アラサー未婚の自分もご多分にもれず、所々のシーンでは冷静さを欠いてしまうくらいにのめり込んでしまった。
特に旅館での吉住(THE W優勝後の公開というベストタイミング)にまつわるシーン、製氷機に辿り着くまでのシーン。胸がざわざわした。


やたらとブレるカメラや寒暖差を左右する照明、映画のテンションのようなかものはぐるぐる入れ替わる。それははっきり見ている側のテンションを阻害するし観ている側として気持ちのいいものではないけど、それはきっとみつ子の(もっと言えばわたしたちだってそう)感情なのだろうからなんとも言えない。きっと意図してやっていることだろうし。でもやたら足される効果音や露骨なコメディ描写は流石にちょっと好きにはなれないかも。これが大九さんの映画の撮り方なんだろうなあ。とはいえこんだけ痛いところを鋭く抉ってくる物語なのだからこういうバランスでもいいのかもしれないけど。うーん。

のん×橋本愛のシーン。特に二人がスケッチをとりながらする会話はヤバい。のんの口から「皐月はいいよね。好きなところに行けて。私はあの場所からずーっと動けないままだよ」なんて言葉が出るなんて、メタ的に見るとちょっとエモすぎる。それに対する橋本愛の返しも良い。