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アル中女の肖像のmayのネタバレレビュー・内容・結末

アル中女の肖像(1979年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

今こそ時は満ちた。そう言って、ひとりの美しい女は、片道だけの飛行機のチケットを買い、ベルリンに、お酒を心ゆくまで愉しむだけの旅に出かける。

美しく着飾って、彼女は、ベルリン中のバーからバーへ飲み歩き続ける。途中、お金に困っているわけではなさそうなのに、さまざまな職業を体験する。働いているときも、ふらふらになるくらい酔っていて、ほとんど仕事にならない。労働を愚弄しているようなところが、彼女の場合は、とてもよい。彼女の人生には労働など必要なく、ただ美しく着飾ってお酒を飲み続けることこそ、おそらく使命なのだ。

ベルリンの壁のある時代に、その壁の周りを彷徨しながら、美しい女性によって実践されるデカダンス。劇中でほとんど声を発しない彼女が「わたしはベルリンがすき!」と高らかに歌い上げる。

この物語は、視線の映画でもある。

パパラッチに写真に撮られ新聞に載る。その写真の自分と鏡に映る自分を見比べる。鏡や窓に映る彼女の顔。水や酒をそれらに掛けて歪む彼女の顔。

最後は、全面が鏡の世界で、鏡を踏み割る彼女の脚とハイヒールが映し出される。割れた鏡の無数の破片にも、彼女の姿だけが乱反射する。彼女だけの、彼女のための、世界。冷戦下の不安定な現実世界のなかで、彼女は、泥酔の果てに、自分の世界を構築する。
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