kaito

ノマドランドのkaitoのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.4
“No, I’m not homeless. I’m just houseless”

『ノマドランド』

クロエ・ジャオ監督作品『ノマドランド』は、フランシス・マクドーマンド演じるファーンと遊牧民を意味する"ノマド"(今作ではヴァンを用いて移動する人々)の人々の交流を描いた作品だ。

まず結論から言うと本作は非常に好きになれた作品だった。映画館で何回鳥肌が経ったか分からない、サントラ・映像の上品さがすごく印象的だった。好きだった点を何個かピックアップする。

・追求されたリアルさ
映画観ていて思ったのは「映画を観ている感じがしない」ということ。つまり非常にリアルな世界が展開されていた。これは意図的に設定されたものだ。なぜならファーンを演じるフランシス・マクドーマンド以外は実在する人物がリアルネームで演じている。彼らの潜在能力というよりも、全体的にフランシス・マクドーマンドがノマドたちの素を引き出しているように感じた。ゆえに現実的な人間ドラマが展開されている。

・洗練された演出要素
演技だけでなく、フレーミングも見応えがある。きっとあの夕陽を撮るために何時間も待ったりしたんだろうな。視覚的にも刺激され、そこに上品なサウンドトラック。物語に大きな展開がないにもかかわらず、様々な感覚器官が刺激され印象深く心に残る映画になった。

・この映画のテーマ
社会的テーマもあれば、人間としてのテーマもあったと感じられる。社会テーマでいえば、もちろん"ノマド"を映し出すことによって格差社会が一つのテーマになっていることがわかる。だからといってそれが重く描かれすぎているわけではない。ファーンとリンダの絆の描かれ方、2人の掛け合いは観ていて非常に心地良く重いテーマが扱われている中での一つのクッション役割であったように感じる。真面目そうだから、重そうなテーマだからと言って敬遠しないでほしい。(まだ日本では数字が伸びてない)
そしてもう一つ、人間のテーマとして描かれていたのが喪失感だったように感じる。彼女の背景が分からないなかで、次第に過去がわかっていく過程はすごく見応えがあった。フランシスは何かを抱えている女性を演じる非常にうまい。(他作品に通じる)ボブ・ウェルズ映画終盤で語っていた話にあったように救いがあるトークシーンはすごく良かった。サントラは邪魔をせず、彼だけが話す、思わず聴き入ってしまう。内容は詳しく語らないが、人間テーマの面では救いがあってよかったな。

・「家」とは?
「家」ってなんだろう。と考えながら観ていくとファーンが放つ一つの台詞が印象的だった。

「『ホームレス』じゃなく、『ハウスレス』だ」

一戸建ての家、などのように物理的な意での「家」がないだけであって、憩いの場としての「家」はあると捉えた。同情してしまうほど辛そうだと感じた彼らの生活を、最後には自由だと捉えることができた。

こうやって自分が知らない世界を知れて、知見を広げることができる映画体験はほんとに貴重なんだな。と中身のない話をツラツラと。
kaito

kaito