Yukenz

ノマドランドのYukenzのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.8
夫を失い、仕事を失い、棲家を失い…
子どもはおらず、胸にポッカリ穴があき喪失感が心を支配する。

60代女性のファーンは全てをキャンピングカーに詰め込んで、仕事を求めながら各地を移動しながら生活する。
キャンプ地ではいろんな人との出会いもあり、困った時にはお互い助け合うことも多い。気ままと言えば響きがいいが、生活は決して楽ではない…

この映画の原作はノンフィクション作品で出演者も主人公のファーンとデイブ以外は実際にノマド生活をしている人たちというから、現代アメリカの実態をリアルに描いていると考えていいのだろう。

前半は正直退屈だが、主人公のファーンの活動範囲が広がりさまざまな人たちと接するようになると世界観がグッと広がる。
時折挿入される美しい景色や自然の偉大さ、力強さにも目を奪われる。そしてエンディングを迎える頃にはしみじみと考えさせられている。

ひと所にとどまって毎日同じ環境で生きていく意味とは何だろう。何かの理由でいまこの住処を手放さざるを得ない状況になったらどうするだろう。何を持っていって何を捨てるのだろう。或いは不治の病にかかり余命宣告を受けたとしたら?家族がいる状況といない状況ではどう考えるだろう…
頭がグルグルと回る。

若いうちは考える事もなかったが、いまの自分の年齢になって考えると、住居を構えてひと所に安定して生活するのが一般的な暮らしであり、ある意味人生の成果の証しのようなものであろうと思う。
そして同じくらいに重要なのは、誰とどのような状態で過ごしているか。

社会の中で最も身近で関係が濃いコミュニティは家族。家族との関係性や経済的な問題で、自分が属するコミュニティで関わる人たちとの繋がりを保てなくなってしまったら…

理想と現実の乖離幅を決める要素として、悲しいかな、資力は結構な割合を占めるのだと思う。
「イントゥ・ザ・ワイルド」のように物欲をキッパリと切り捨てて自然の中でひとり生きていくのは相当な覚悟と知識と体力が求められるので、自分にはとても無理な世界。

仕事に命を懸けて生きる訳じゃないけど、オフの時間を気分良く快適に過ごすには、一定の収入は必要。
その為には何か一つでも、自分が価値ある存在として示せる知識や知見、技術、体力・精神力・集中力・忍耐力などの能力を持ち合わせていると可能性は高まるし、複数あれば尚のこと。リスキリングって言葉もだいぶ浸透してきた。

この作品を見て、生きていくのが難しい世の中だよなと、しんみりと考えてしまった…
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