マヒロ

アイダよ、何処へ?のマヒロのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
3.0
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争において、国連の職員として通訳の仕事をしているアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は、武装し侵攻してくるセルビア軍を止められない国連のオランダ軍に苛立っていた。ついに間近に迫ったセルビア軍から逃げるために、街から大量の避難民がアイダのいる国連の施設にやって来るが、全員収容出来るわけもなく多くの人が敷地外に取り残されてしまう。その中には間の夫と二人の息子もおり、家族を救いたいアイダはなんとか彼らを入れてもらおうと奔走する……というお話。

民族間の対立から始まったボスニア紛争において、最悪の事件とも言われる“スレブレニツァの虐殺”について描いた作品。現地人だが国連という外部の組織で働くアイダの目線から事件の一部を映し出している。
暴虐の限りを尽くすセルビア軍のムラディッチ将軍に対して、ライフラインにならなければいけない国連は全くの役立たずで好き放題を許してしまい、そんな中でアイダは半ば職権濫用に近い手段を用いて家族を軍の手から守ろうとする。どこか自分本位にも見えてしまうアイダのやり方だが、ルール無用で迫る相手から身を守るためには手段を選んでいられないのかなと思った。
同僚とはいえあくまで外部の人間である国連の人々はあくまで粛々と対応を進めていくが、アイダに特例を許してしまうと歯止めが効かなくなる……という主張は最もで、映画を観ている側からしたらアイダ一家に救われてほしいという気持ちはあるが、そう上手いことはいかないという事情も分かってしまい、両者の主張がどちらも汲めてしまうというアンビバレンツな感情に引き裂かれそうになる。

当時の混乱状況を視点を絞ることで分かりやすくすることには成功しているとは思うが、虐殺の様子を何となくぼやかして描いていることで緊張感が薄れてしまっているのも気になるところ。まだ紛争が終結してからそこまで年月が経ってるとは言い難いが故の配慮とも言えるが、悲惨な状況の全貌をぼやかしつつ緊迫感も保っていた『サウルの息子』みたいな作品もあるし、もうちょっと何とかなったかなとも思ってしまった。

(2023.47)
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