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いとみちのCOLORofCINEMAのレビュー・感想・評価

いとみち(2020年製作の映画)
4.8
●時間が経過して色々なシーンが浮かんでくる作品がある。
本作がそうだ。見た瞬間もよかったが、じわ~っと、あー、また見たい!と。
●ご当地映画としても過不足なく、そして押し付けがましくもなく上品に成立している。
津軽三味線、名所(岩木山・浅虫海岸・弘前れんが倉庫美術館)、ご当地アイドル(りんご娘・アルプスおとめ・ライスボール)、そしてりんご(アップルパイ!)
●駒井蓮さん演じる”いと”の「ぐぬぬぬぅぅ」といった声が聞こえてきそうな悔し顔を思いだし笑いした。
あんな漫画でしか見たことのない表情、実写で初めてみた。
また、場面場面で変化する表情も本当に素晴らしい。
パンフレットの写真だけでも同一人物とは思えないほどの印象。

(ここより内容、台詞に触れています)

●通学列車が一緒で初めてできた友だち、早苗(ジョナゴールド)
父親や他の同級生、周りの人たちとは違った表情を見せる。
半ば家出(祖母に「頭、冷やしてこい」と父親とともに出されたのだから家出でもなくなる 笑)のような形で三味線(持って行く必要がないのだが、なぜか目に付いた)とバッグを持って早苗の家に泊まる、いと。
ここのシーンも好きな場面。
早苗「いとっちは三味線弾いだ方がいいよ」
いと「なして」
早苗「うん、なんとなく」
この前段階があってのラスト、津軽メイド珈琲店でのライヴ。
●いとの父親、耕一(豊川悦司)。
『子供はわかってあげない』でも雑な日焼けの不思議能力・海パン父を演じていたが、本作でも幼くして母親を亡くした、いととの接し方に戸惑いを隠せない父親を好演。
父と娘の距離感。どこかよそよそしい。
お互い、打ち解けようとしても打ち解けない。
メイド珈琲店が経営者のオーナー逮捕で危機に陥った時、初めて語彙を荒げて、いととぶつかる。
(母親とのこと、周囲の同情などで)感情を表に出さず、泣かなかった、いと。
そんな二人の気持ちが通じるアイテムとしての珈琲。
父、耕一がいつも母親の仏壇に供えていた珈琲を、いとが初めて入れて父に出す。
会話はなかったが、成長した、いとの心を映した素敵なシーンだ。

●周りの人たちも素敵。
永遠の22歳(って言った瞬間、笑ってしまった)本当はシングルマザーでいろいろ大変なのに、いとの心をほぐしていく先輩メイド、葛西幸子(黒川芽以)。浅虫海岸での慰安旅行。ここでの会話がまた、いとの心をほぐす。
同じく先輩メイドの智美(横田真悠) 漫画家志望で東京行きを目指している。上昇志向のように見えて友達もいなくて絵を描くだけと、いとに感情をぶつける。それが、またお互いの心を開いていく。
珈琲店・店長、工藤(中島歩)の結果的に信頼のおける立場に。接し方が丁寧。
いとの祖母 ハツヱ(西川洋子)
娘(いとの母)、いとに三味線を教える(伝える)。実際に高橋竹山の最初の弟子ということを後で知ってびっくり。演者としても、いとと耕一の良き理解者にしてメンター。まなざしが優しい。玄関で必ず干し餅を出してくるところが、また良き味。
●いとが青森空襲の記念館に行くシーン。
(監督が以前に「イヨマンテ」を見たときに打ちのめされたのと同様の衝撃を、いとに感じてもらいたいとイメージした映画)『女と男のいる舗道』で、アンナ・カリーナ演じる主人公ナナが『裁かれるジャンヌ』を観て涙を流す、あれくらい美しくて衝撃的なシーンが撮れないものかと思って。(監督インタビューより)
●そして、ラスト。
リニューアルしたメイド珈琲店での三味線ライヴ。
「...わあは、好ぎだように弾ぎます」
満を持して、どっしりと力強く三味線を弾く、いと。
そのまま、岩木山への父、耕一との登山シーンへ。
津軽平野を見下ろし、家のある方へ手を振る。
「わあだぢ。ちっちぇな」
逆に岩木山に手を振る、いと。

横浜聡子監督のすべての人に向けるまなざしは、そのまま見ている観客にも素直に届く。最初に書いた通り、それは初見から時間が経った今もじわ~っと心の中に残る。
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