救済P

劇場版AIRの救済Pのレビュー・感想・評価

劇場版AIR(2004年製作の映画)
3.7
あまりにも非難されているが葬られていいような作品ではない。

keyが作った『AIR』の空気感は見事に霧消している。観鈴が両手を広げて一心に風を受けている。『夏影』が流れ、時が一気に遅くなる。ノスタルジックの全てを一夏に預けた『AIR』の感傷は息を潜め、代わりに祭りの喧騒と劇画調のカットで表現された往人をはじめとした葛藤が描かれる。

観鈴が両手を広げて海に向かっている画がない時点で『AIR』の核がこの作品にはないので非難されてもしかたないが、前述した劇画調のカットに代表されるように出崎特有の演出は『AIR』を新たな側面で鑑賞することを可能にしている。
話を観鈴ルートに絞り、SUMMER編の話までそれなりに丁寧に拾っている。京アニのわちゃわちゃ感と極振りされたシリアスの融合によって練りあげられる感動は全くないが、祭りの開催を話の柱として、そこに向かって進んでいくキャラクターたちの心情の描写は筋がしっかりとしているのでわかりやすく先入観を排除して観ることができるのならば面白い。

往人の人形劇がウケたり、ゴールするときに同席しているなど原作および京アニとの相違も多い。それが面白かったり許せなかったりもするのだが、原作・京アニにあったノスタルジーを犠牲する代わりに出崎にしかできない激情の載ったアニメとして生まれ変わった。さすがに京アニとどちらが好きかと問われると考えるまでもないが、これはこれで全否定されていいようなアニメではない。ただ、観鈴との出会いは、両手を広げて、風を、一心に。これだけは、譲れない。
救済P

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