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シカゴ7裁判のfujisanのレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
3.8
エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン・レヴィットなど、人気若手俳優達によるドラマチックな法廷劇。

2020年製作の映画。監督は「ソーシャル・ネットワーク」、「モリーズ・ゲーム」など、実話を元にした映画が得意なアーロン・ソーキン。

元々は劇場公開用に作られたもののコロナ禍により上映できず、配給権をNETFLIXが買い取った映画。Filmarks高評価が示すように、素晴らしい内容ながらも、NETFLIXでしか見れないのが残念です。



本作はタイトル通りの裁判もので、法廷内でのやりとりがメイン。

ただ、邦題「シカゴ7裁判」よりも原題の「The Trial of the Chicago 7」の方が意味が通りやすいかと思います。言うなれば、”シカゴ7の裁判” 。

では、シカゴ7とは何なのか。

映画の舞台、1960年代のアメリカでは、ベトナム戦争に対する厭戦ムードの高まりから、若者を中心にヒッピームーブメントが流行。街中ではデモが繰り広げられています。

若者たちが掲げる自由と平和、そして、なぜアメリカの若者がベトナムまで行ってベトナムの人々を殺さなければならないのか、という兵役拒否は理解できなくはないです。

ただ、一部若者の暴走によるマリファナやLSDなどの蔓延、サイケデリックな服装や半裸でフリーセックスだなんだと街中で騒いだりする姿には、眉をひそめる人も多かったことでしょう。
(このあたりは、NHKドキュメンタリー『映像の世紀』などが詳しいです)

この映画は、そういった様々な感情で揺れ動くアメリカの時代に、戦争を正当化したい政府側が暴走し、若者を中心に当時目立った活動をしていた7人(=シカゴ7)をいわれのない罪で拘束し、見せしめのように行われた裁判の顛末記となっています。



この映画が素晴らしいのが、
描き方次第では、暗く陰鬱で退屈な映画になりがちな法廷劇を、キャラクターが立った(キャラが立った)人間劇としてドラマチックに映画化しているところ。

序盤、シカゴ7は不条理な裁判に巻き込まれており、被告=可哀想の構図のはずが、彼らの破天荒な言動や行動もたいがいなので、こいつらもこいつらで悪いんじゃね?みたいに思えます。

ただ、まるで若者たちを暴発させるためとも思える挑発的な警察の対応や、時折インサートされる当時の実際のニュース映像を見ていると、次第に国を背景とした集団悪の構図が見えてきて、やっぱりだめだこれは、と。

そうやって徐々に問題の構図や焦点が定まっていく脚本は見事でした。

また、最初は、ケンカばかりしていた7人が、裁判が進んでいくに連れて互いに認め合い、一つの目標に向かって信頼が深まっていく成長劇としても惹き込まれる話になっていて、最後のシーンでは思わずウルッと来てしまいました。


□ アメリカの強さ

おそらく観た人の多くが感じるクソ判事。

弁護側の発言を度々遮り、LとRの発音の違いを粘着質的に拘り、最後には自分の意に沿った発言をすれば判決に手心を加えるって堂々と言ってしまう無茶苦茶さ。

最終的には検察VS弁護側ではなく、[検察&弁護側] VS 判事になっていたのが印象的でした。

ただ、アメリカが強いなと思うのは、徹底的にルールに基づいた闘いで決着をつけるところ。

この裁判で有罪となった7名は、その後、判事が取った行動が不適格として無罪を勝ち取っており、このように、法律が最後の砦として機能しているところにアメリカの強さを感じます。

2015年のスピルバーグ監督「ブリッジ・オブ・スパイ」で、弁護士のドノバン(トム・ハンクス)が、冷戦下のアメリカで逮捕されたソ連のスパイの弁護を引き受け、『アメリカというのは法律が大切なんだ、原理原則を守らなければならないんだ』と、熱く語っていたことを思い出しました。


□ 映画について

本作は2007年にはすでに脚本が出来ており、スピルバーグが監督をする予定だったそう。その後ストなどもあり、スピルバーグは降板。監督が決まらない中、2018年にアーロン・ソーキン自身が監督することに。で、映画は完成したものの、今度はコロナ禍で上映できないっていう、相当苦労した作品のようです。(ウィキペディアより)

結果的にはNETFLIXの配信でしか見れなくなっていますが、とはいえ、この映画がお蔵入りにならなくてよかった!と思える良作でした。

俳優陣も豪華。個人的に好きなエディ・レッドメイン(直近では「グッド・ナース」で連続殺人鬼を演じていた)、ジョセフ・ゴードン・レヴィット(「プレミアム・ラッシュ」でチャリ漕いでた人)が見れたのが良かったのと、マイケル・キートンのさすがの存在感!が素晴らしかったです。

こじんまりしたNETFLIX映画のように思えますが、劇場公開されるべき大作感ある作品。おすすめです。




2023年 Mark!した映画:301本
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