真田ピロシキ

サマーフィルムにのっての真田ピロシキのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.0
今年『映像研には手を出すな!』に大ハマリした影響で映像創作系の話は是非とも見たくなって手を出した本作。ハダシ、ビート板、ブルーハワイと言う珍妙な名前のメインキャラ3人は『HOUSE』?そしてタイムトラベラーとの恋愛要素はわざわざビート板の読んでた本で説明されるまでもなく『時をかける少女』で大林宣彦オマージュを強く感じさせる。ノスタルジックを喚起させる雰囲気も大林的だ。

ハダシは勝新や市川雷蔵の仕草を真似して見せる重度の時代劇オタクで当然撮りたい映画もそれだが、学校の映画部が撮っているのはキュンキュンのキラキラ映画で賛同する部員もいないために燻っている。それがある日、自分の脚本イメージピッタリな謎のイケメン凛太郎に出会った事で彼を無理矢理引き込んで、ビート板とブルーハワイ、学校の個性的な面々も勧誘して時代劇映画の製作に取り掛かっていく。撮影している中で度々キラキラ映画とバッティングしてて、キラキラ映画に悪い印象を抱いているハダシはメラメラと対抗心を燃やしているのだが、これでキラキラ映画の彼女等を悪役にされたら嫌だなあと思っていた。ところがどっこい、この映画でキラキラ映画は別に悪者にされていなくて、監督の花鈴は「眼中にない」と言っていたが実際それは悪意に基づいた発言ではなく他人と比べる発想をまずしてなく自分の世界を持っていて創作にも信念がある。すげーぜ花鈴、チャラいようで人間が完成されている。そんな花鈴の姿勢はハダシにも良い影響を与えて時代劇はキュン死映画であるという新解釈を見出す胸熱。熱い壁ドンもある殺陣!マニアックなジャンルの好事家はとかく大衆的なジャンルに敵対心を抱いて見下しがちであるが、この映画ではジャンルに貴賤などないと幅広いジャンルを肯定してて偉い。時代劇に限らずあなたの好きなジャンル、ゾンビでもカンフーでもアメコミでも良いが興味のない人にはぶっちゃけキラキラ映画と大差がない。それでも誰かに刺さるのなら何かしら重大な問題のあるコンテンツでもない限り否定する必要はないと伝えてて、狭量なオタクの内輪ノリを称揚するような映画とは正反対なのがとても良かった。映画文化が消滅した凛太郎の未来世界はTikTok等の短い動画文化流行への危機感を表明したのだろうが、これは少し安直な演出に思えた。しかし同じ大林フォロワー的で「エモい」を魔法の言葉にしてた感のあった『ウィーアーリトルゾンビーズ』なんかと違って逃げずに物語を描けてて好感と希望の持てる映画です。

私はアイドルに全く疎いので知らなかったのですがハダシ役の伊藤万理華という人は乃木坂の最初期メンバーなんですね。映像研の実写版も乃木坂だったし何かと縁があります。一番上手く感じたのは微妙な感情の揺れを表現してたビート板の河合優実かな。名前を聞く作品に結構出てるようなので気になる存在です。お気に入りは実はキュン死大好きなブルーハワイの祷キララです。主演の3人は皆魅力的に撮られてて他の人達も良いので、若手俳優発掘の観点にも適してオススメです。