LudovicoMed

トータル・リコール 4KデジタルリマスターのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

4.5
〈な、なんとバーホーヴェンからのオリジナルメッセージ付き! リコール社が提供する火星の体験が4Kで〉

『AKIRA』に『地獄の黙示録』名画たちがリマスターバージョンで公開される昨今、ついにはアレが、4Kで降臨。しかも日曜洋画劇場とかの「このあとすぐ‼︎」前説のような雰囲気でテンションアゲアゲなバーホーヴェンが登場。「CGじゃ出せない迫力を堪能してくれ」とかシュワがロボコップに惚れ込んでタッグを組みたがっていた際は「彼とは初対面の時からMy Menって感じだったぜ」とか色々語ってくれた。

さて、4Kともなるとやはりあの火星色だ。もちろんビビッドなのだが、セットの感触や時折現れるマットペイントとかスモークにガンガン覆われる特殊効果なんかがじっくり観察できる。だがむしろ路地裏等、暗い場面がよりクリアになり、これまでのVHSダビング感な粗さが鮮明に解消されていたぞ。
そして何より、「火星は前に来た事がある」な何度も鑑賞済みの自分もスクリーンで拝むのは初めてでしたが、ホントにサイコー過ぎた。

リコールマシンに入っていくシュワが大冒険の準備設定を選んでいくあたりが、ちょうど予告編にワクワクする高揚感に似て、これから始まる映画的ハッタリにダイブしたくなる。
バーホーヴェンのハードコアさと圧倒的荒唐無稽なシュワの存在感が中和した空想科学の世界が、近年では味わえない映画の興奮が、そこにはあった。

そして陰謀論めいた警句が右から、左から促される怪しげなシナリオを絶妙に織り交ぜたフィリップKディックのスパイスにより観客を懐疑的な心理に導き出す。秒で決断し次々殺しまくるシュワに、その行動で正しかったのか?と疑いたくなる。
シュワルツェネッガーといえば軽快愉快に人を殺しまくり、ジェームズボンドみたいな気の利いた捨て台詞を吐く、一種のプログラムピクチャー俳優だ。そこにバーホーヴェン×特殊メイク師ロブボッティンの悪趣味造形がマリアージュすると異様な戦場が広がる。それでも世界一羨ましいワイフことシャロンストーンを「これで離婚だ」と射殺、しぶとい悪党に「パーティで会おうぜ」と爆笑の殺戮ショーをオンパレードしてくれる。

本作はまさに過激なエクストリームをまるでギャグの様に扱う術がバーホーヴェン映画群の中では新奇性だろう。例えば怒り狂った暴君が金魚鉢を投げ割るという、まあよくある場面だが、ここでわざわざ金魚にフォーカスしていき、床に散らばった僅かな水溜りの中、ゆっくり干からびてゆくカットが1クッション挟まれる。そして次のシーンは暴君に空気を止められ苦しむ火星の人々が映される。
なんとも子供騙し的な地獄絵図がこれ見よがしな見せ場としてナンセンスに描かれる。
まるでバーホーヴェンの目には、シュワルツェネッガー系譜の能天気なアクション映画がコメディに見えたかの様に、大味ハリウッドに乗っかって悪ふざけをかます。
すれ違う火星の人々のエログロな造形なんかもギャグとしてチラつかす"ディテール"が闊歩しているので、"ウォーリーをさがせ"さながらに鬼畜な造形があちこちに散らばっているのだ。

そして、いわゆるグレーなハッピーエンドへと辿り着くのですが、本作が楽しいのは『未来世紀ブラジル』における、例のラストシーンを切った状態で終わるため観客は解釈を広げられる。そこに「これが夢だったらどうしよう」なんて嘆いたり、廃人への入り口か?と疑いたくなるホワイトアウトで幕を閉じたり、映画内で積み重なった陰謀論が劇的に盛り上がるのだ。

本作は陰謀論に翻弄され、追手と記憶から逃走中しまくるトラブル珍道中をプログラムピクチャーな映画的躍動感、ハードコアな視覚でもってスリリングに駆け抜ける。
そんな別世界にしか見えない映画のハッタリがあまりに面白く、小学生の心に帰ってしまい夢中になりました。
最後にはあまりの満足感に予定にはなかった涙まで目に溢れてしまった。

これぞ、リバイバル映画の醍醐味ですね。
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