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アメリカの友人のnetfilmsのレビュー・感想・評価

アメリカの友人(1977年製作の映画)
4.0
 現在よりもだいぶ汚れたニューヨークの雑踏の中、薄汚れたビルの前にイエロー・キャブが横付けする。カウボーイ・ハットを被った男は苦々しい様子でニューヨークの空気を吸い込むと、静かにビルに入って行く。部屋ではいつまでも経っても現れない男を待つ画家ボガッシュ(ニコラス・レイ)が、ようやく現れた雇い主トム・リプレー(デニス・ホッパー)の登場を喜ぶのだ。ボガッシュは贋作作家で、リプレーは彼の絵をヨーロッパの画廊で売り捌いていた。ニューヨークの滞在を半日で切り上げ、故郷のハンブルグに戻ったリプレーはその絵をいつものように画廊のオークションで売り捌こうとするが、後ろから「この絵の青は濃くておかしい。贋作ではないか」というひそひそ声を耳にする。だが美術商は彼の忠告には耳を貸さず、絵は何とか高く売れた。この証言をした額縁職人のヨナタン(ブルーノ・ガンツ)という男にリプレーは握手を求めるが、「噂は聞いている」という侮蔑の言葉を残し、握手を拒否する。オークションの主催者はヨナタンは白血病で、そう先は長くないのだとリプレーに呟く。その夜、ミノ(ジェラール・ブラン)が殺しの依頼の為にリプレーの前にやって来た。マフィアの男を殺すため、適当な素人の男を殺し屋に仕立てたいと言われたリプレーは真っ先にヨナタンに白羽の矢を立てる。

 ヒッチコックの『見知らぬ乗客』やトッド・ヘインズの傑作『キャロル』の原作者であるパトリシア・ハイスミスの物語は、死期が近付いた男を巧みな言葉で暗殺者へと駆り立てる。白血病を患ったごく普通の額縁職人には美術商手伝いの愛する妻と幼い2人の息子がいる。赤いワーゲンで子供の送り迎えをする子煩悩な父親は、額縁職人ではとてもまとまった額の現金など残せはしない。25万マルクもの大金に思わず目が眩んだ男は、うっかり見知らぬ男の殺害計画に乗ってしまう。これまでヴェンダースのロード・ムービーには車やバス、列車などの移動が登場したが、これ程までに憂鬱な列車の旅はあっただろうか?ヨナタンの視線は見張りの男の影に怯え、素性を知らない男をショットガンで撃ち殺す。その暗殺計画を裏で糸を引いたリプレーは、贋作の真実に気付いたヨナタンを誰にも知られることなくいち早く殺したかったはずだが、同時に男は目の上のたんこぶだった男に同情とも親愛とも取れないような奇妙な感情を抱く。己の死期を悟った男と、生きた心地がしないまま、のうのうと生きる男。リプレーの奇妙なお節介がヨナタンの死線をうっかり繋ぎとめる。第二の殺人を遂行した2人の心には確かに奇妙な友情が宿るのだ。だが犯罪活劇のラストは決まって同じ所に収まる。

 ニコラス・レイやダニエル・シュミット、そしてサミュエル・フラー。ヴェンダースは世代も国籍も違う3人の監督をそれぞれ重要な役に役者として配置し、『理由なき反抗』の師弟(ニコラス・レイとデニス・ホッパー)とを20年数年ぶりに再会させる。『イージー・ライダー』のテーマ曲を口ずさむデニス・ホッパーの演技は、彼の生涯のフィルモグラフィの中でも極めて印象に残る。そういう映画史的な視座を巧みに織り交ぜながら、極めて難解な語りの中で紡がれた2人の引き裂かれていく友情。何度観ても痺れる作品である。
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