Smoky

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-のSmokyのレビュー・感想・評価

3.9
自伝であり、米国の白人貧困層の家族や文化について書かれた原作本が、特に前大統領の当選後から、やたらと米国の政治的・社会的なイシューを語る際の引き合いに出されていて、本書の主題から外れているんじゃないか?という違和感をずっと感じていた(おそらく筆者も困惑していたと思う)。

今度は、ロン・ハワード監督による映画化の話を聞いたとき、大味なお涙頂戴のメロドラマに成り下がるのではないか?と危惧したけど、それはある意味で当たっていて、ある意味(良い意味)で外れていた。

むしろ、政治的・社会的な部分を廃し、家族描写に絞ったことで貧困から抜け出すための重要なポイントを描いている。それは「正しい努力の仕方を教えてくれる人や情報の存在」であり、それを得るために「その足枷となる周囲の人間関係を断ち切って離脱すること」だ。

しかし、これは本当に難しい。困難に直面すると、怒鳴り、暴力をふるい、他責にして逃げる。教育や医療などの支援が不可欠にも関わらず、バカにされたくないという思いが強過ぎて、それを与えようとする者に突っかかる。そして、ここに薬物やアルコールが加わるとさらに厄介な状況になる。怒りと混乱によるストレスは自分の子供にも向けられる。

子供にとって絶対的な存在である親がこういった状態である場合は絶望的だ。現状も恐怖だが、親から離れることもまた恐怖。仮に、後者を選んでも狡猾な親や周囲の大人は子供の罪悪感に訴える「みんな苦労したんだから」と。相互扶助という名の相互監視と足の引っ張り合い。

だからこそ、本作はそこからの離脱を描いた一点において評価されるべきだと思うし、原作本で筆者が訴えたかったのもこの部分だと思う。

エイミー・アダムスとグレン・クロースのホワイト・トラッシュになり切り演技は素晴らしいの一言。
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