純

トリュフォーの思春期の純のレビュー・感想・評価

トリュフォーの思春期(1976年製作の映画)
4.7
子どもたちを中心に、彼らの目線から世界を見た、子どもと大人のための物語。授業終わりに一斉に教室から飛び出し、学年もまばらに町中を走り抜ける冒頭から、笑顔の子どもたちがスクリーンいっぱいに映し出されるエピローグまで、とにかく大勢の子供たちが出演する。その中のひとりひとりのエピソードを順に並べた作品となっていて、子どもならではの愛くるしさやたくましさ、危なっかしさや非力さをありのままに描いている一本だ。

邦題に「青春期」と入っているからと言って、十代後半の男女の恋愛劇を描いているわけではない。実際にはもっともっと年齢の低い子たちが多いし、家族、大きく捉えた成長についての日常がこの町ならではの空気の中でただ流れているだけだ。でも、それ以上の日常なんてきっとない。子どもたちの無邪気な日々が、これは「恋愛期」ではなく「青春期」なのだということを、優しく教えてくれる。

フランスという国の色がすべてのシーンに出ていて面白かった。子どもたちから大人まで性に開放的で、あまりに自由すぎる価値観を持っている。子どもたちは可愛い顔して「そんな小さい頃からそんな卑猥なジョーク言っちゃうの?!」って感じだし、大人は大人で「公の場でまあ…」という感じで(笑)シングルマザーに育てられている幼いグレゴリー坊やはパン床に引きずっちゃって、軽く注意されてるだけだったけど、「えええ、それ食べるんだよね?」とたまげちゃって、なんだかもう気にしない度合いがいろいろと清々しかったな。

ちなみに、このグレゴリー坊やは天使のように可愛かった。赤のオーバーオールがその愛らしさを更に引き立ててたまらない。可愛い猫ちゃんを抱っこする可愛い赤ん坊…。ひたすらに頬が緩みました。ただ、ここでもフランスの自由すぎるが故の危なっかしさが表れている。フランス映画は常に一秒先に何が起こるかわからないヒヤヒヤした感覚があるんだけど、この映画も例外じゃない。お母さんあまりに不注意すぎるんじゃ?って不安になったけど、こんなことになっても周りの大人も結構悠長なんだよね。でも子どもはすくすく育っていく。「子どものほうが大人より強いのよ。何かに抵抗する生命力があるわ」という台詞はとても印象的で、素直に正直に生きているからこそ、「受け入れる」という姿勢も自然体なんだろうなあと思った。大人だと同じ受け入れるという言葉の中にも「諦め」や「我慢」が入ることが多いけど、子どもの場合は違う。そのときそのときで自分の背丈の分だけ物事を学び、吸収していく。常に安全なわけではないけれど、自分の肌で社会を知り、生き方を知っていく。自分の人生に、自分で色をつけていく。そしてその色は、どんな色でもきちんと許容される。フランスのおおらかさは、少し呆れちゃうけど、同時に羨ましくなるくらい人を肯定してくれる気風なんだと感じた。

他にも、真面目でお利口なパトリックが年上の女性に憧れて勇気を振り絞るも子ども扱いされちゃうところだとか、悪知恵を働かせてお金を儲けようとする兄弟たちのちょっとした悪ふざけだとか、頑固なシルヴィーの思いもよらない両親への反撃とその周りのひとたちの協力だとか、なんだか本当に伸び伸びと生きる子どもたちが眩しい。少しいたずらが過ぎるときだってあるけど、大人たちが思う以上に、子どもは自由に生きてるんだよね。

転校生のジュリアンが母親や祖母からいじめられていることについてのくだりがバランスよく深刻なテーマを盛り込んでいて、作品に緩急がついている。事実発覚後、担任の先生を含め大人たちはジュリアンを「可哀想」「不自由」と見ていたけど、ここでも子どもたちとの見方の違いが出てるんだよね。そもそも彼が転校してきたときだって、先生たちが「貧しい家の子」「問題児」とレッテルを貼っているのに対して、子どもたちは「新しい仲間」としてジュリアンを受け入れていた。貧しいとか教科書を持ってこないなんてつまらないことで偏見を持ったり見下したりなんかしない。先生の言うことも一理あるけど、子どもたちはきっと自分たちの曇りない瞳を失わずに、まっすぐしなやかに育っていく。生きていくことは辛くても、彼らならきっと美しい人生を歩んでいく。そう思わせてくれる、素敵で勇敢な子どもたちばかりだった。

映画館という場所の描かれ方も素敵だったなあ。大人と子どもが社会での関係を取っ払って、一番自由に振る舞える場所。愛するひとととびっきりロマンチックな時間を過ごしたり、とっておきの贅沢としてちょっと悪知恵を働かせてみたり、ほんの少し背伸びをしてみたり。たくさんの愛が、それぞれの形をして息をしていた。それだけで、この町が愛に溢れていること、人々が互いを大切にしていること、この場所をかけがえのない場所としていることがわかる。これだけ多くの人がひとつになれる場所として映画館が役割を果たしていること。なんて素敵なことなんだろうね。

涼しい秋晴れの日に、こんなにも愛おしい映画を観ることができて本当に良かった。きっと今年の秋も素敵になる。そして皆、季節ひとつ分だけ、大人になっていく。
純