さいとう

ドライブ・マイ・カーのさいとうのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
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“他人を知るためには、まず自分の心に正直に折り合いをつけなければならない”

何かを失ったときやつらいとき、自分を責めたり後悔すること、想いを巡らせることは往々にしてあるけど、ただ本当に向き合わなければならないことから目を逸らしているだけなのかもしれない。

けど、どうしたって最後に私たちがしなければならないのは、正しく悲しむこと、傷つくこと、辛さを感じること、そして生きること。

とはいっても、それはとても難しいことでもあるし、目を背ける時間がなければ壊れてしまうことも、目を背けたからこそできることもある。
だから、逃避することを他人がとやかく言う権利もまったくない。

目に見えること、聞こえることが全てとは限らないけど、それが自分が知り得る“本当“であることも確かだ。
だからこそ、それを真正面から受け止めたうえで、想像しなければひとりよがりになってしまうんだなと思う。

「偶然と想像」でも感じたけれど、濱口監督の作品では演劇を観るときに感じるような、フィクションがリアルを飛び込えてくるような強さ、観客がフィクションを受け取る意義のようなものを感じる。だからといって、濱口作品は演劇みたいだ!というわけでは全くないけれど。

あと、個人的に驚いたし、とても嬉しかったのは、安部聡子さんが出演していたこと。

クレジットが最初に登場したときはソーニャを演じるのかと思ったけど、劇場の職員で、ホッとしたようなびっくりしたような(笑)あの有無を言わせない不気味な感じ、嫌いじゃない。むしろ好きだ。
私にとってのチェーホフは地点の印象が強いから、賛否両論あるのは勿論だと思うけど、地点が協力してたのは「おお」ってなった。

静かだけど、希望に満ちた物語だったなぁ。